総じて言えば、時間が過ぎるのをガマンして耐える、という経験で、それを通過してどれだけのものが自分の体内・脳内に残るかどうか、講師の熱意に比べれば必ずしも釣り合いが取れない、ということが多いのではないでしょうか。もちろん、時間が経つのを忘れさせるほど面白く、しかも、これからの業務の局面に十二分に生かされるであろう実際的な技術を身につけられる研修も、世の中にはあるのだろう、とは思いますが。

「ダイアローグ」によって
“自分で稼ぐ覚悟”を芽生えさせる

 私たちが考え、間もなく実施する「心構え研修」は、「ダイアローグ(対話)」の手法でおこなう参加型の研修です。

 ダイアローグの考え方と手法については、中原淳・東京大学准教授(教育学)と長岡健・産業能率大学教授(組織社会学)の共著である「ダイアローグ 対話する組織」(ダイヤモンド社刊)で詳述されていますが、ひとことで言えば知識の一方的な伝達ではなく、自分たちで意見交換しながら新しい知恵を身につけてもらう、という考え方です。

 この研修では、「なぜ、この会社を選んだのか」、「なぜ給料をもらえると思うか」というような課題を提示し、5人1グループに分けた新入社員に、グループごとにディスカッションしてもらい、グループごとの意見と考えを発表してもらう、という方法をとります。

 これに対して、私が短いコメントを述べ、さらに人事担当者のコメントも加えてもらう、というやり取りになります。

 これによって期待しているのは、「正解」を受動的に承って終わるのではなく、拙くとも自分のアタマで考え、それを同期の仲間と交換し合って、適宜微修正するプロセスを知ってもらうこと。つまりは、相手の意見を覆すことを目的とする議論ではなく、未知の考え方に刺激を受けて、新しい知恵を身につける、社会人としての真っ当なコミュニケーションを知ってもらうことにあります。

 さらに、提示される課題は「働くこと」へのビジョンを再考するものであり、彼らが考えた内容を素材にして、私と人事担当者と新入社員とが第2のダイアローグをすることになります。そこでは過度に誘導的に振舞うことはしません。彼らの回答の中に「“自分で稼ぐ覚悟”の萌芽」が必ずあるはずである、というのが企画者の仮説です。

 ビジネスマナーに代表されるように、「型にはめる」ような研修も、最小限、必要ではあるでしょう。外に出て、きちんとしたコミュニケーションができるようになることは、当たり前に期待されていることです。