トヨタ自動車のリコール問題は、日本製品=高品質という神話に大きなダメージを与えた。振り返ってみれば、古くは雪印の集団食中毒問題をはじめ、この10年の間で、日本製品の品質の低下をうかがわせる不祥事が、毎年起こっている。その背後では何が起こっているのか。原因はどこにあり、企業はどのような問題意識を持つべきなのか。生産管理の専門家である慶應義塾大学ビジネス・スクール校長の河野宏和教授に「日本企業の製造現場を元気にするために、いま求められているものは何か」について聞いた。河野氏が提示するのは、「現場の力」、「経営者、管理者の力」、「現場リーダーの力」そして「ひねくれ者の力」という4つの視点である。
日本製品の品質が揺らいでいるかどうかということについては、古くは雪印、食品偽装問題、最近のトヨタのリコール問題などがあり、その指摘は間違ってはいないと思う。ただ、全ての企業がそうかというと、問題を起こす企業もあれば、そうでない企業もあり、その格差が広がっている。
工程ごとに委託会社を変え
全体最適を達成できない工場も
こうの ひろかず 1980年慶應義塾大学工学部卒業、1982年同大学院工学研究科修士課程、87年博士課程修了、同年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助手、91年工学博士、1991年助教授、1998年教授となる。2009年10月より現職。1991年7月より1年間、ハーバード大学ビジネス・スクールヘ留学。IEレビュー誌編集委員長、TPM優秀賞審査委員、日本経営工学会理事。
大事なのは、その背景に何があるかということだ。一つには「現場」の弱さ、特に現場で働いている人の問題があると思う。人件費を下げるために、非正規社員、パート、業務委託、外国人といった人たちの比率が上がり、作業者の環境が変わってきている。
安全性という面においても、品質に関しても、認識や知識を十分に持っていない人たちが、現場を構成するようになってきている。あるいは、委託社員同士では、相互に改善提案を直接やりとりすることは原則として禁じられているので、コミュニケーション不足という問題が起こる。