『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第5刷となった。
本連載シリーズ記事も、累計171万ページビューを突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、元福島第一原発の原子炉設計者で、現在、翻訳家・サイエンスライターの田中三彦氏と対談。
田中氏は福島原子力発電所国会事故調査委員会の委員をつとめた。
避難にまったく責任を持たない原子力規制委員会の闇を追及する。
(構成:橋本淳司)

「新規制基準」の
おおいなる誤解とは?

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

田中 8月11日に川内原発が再稼働しました。原発周辺の人は、「新規制基準に適合し、安全な原発になったから再稼働した」と思いたいのかもしれません。しかしながら、それは大きな誤解です。

「新規制基準」とは、安全かどうかを見定めるものではないのです! 実際、この基準を策定しはじめたころ、規制委員会はそれを「新安全基準」と呼んでいた。しかし、やがて自分たちがつくろうとしているものが「安全基準」でないことに気づき、慌てて名称を「新規制基準」に変えている。

新規制基準とは、あくまで、重大な原発事故が起きうることを認めたうえで、その対応ができているかどうかを見定めるものです。

広瀬 再稼働直前の検査段階で、九州電力が何をやりましたか? 大事故を想定した訓練をやったのですよ。要するに事故は起こると思いながら再稼働させているわけです。それをみんなが認識していないということですよね。

田中 おっしゃるとおりです。原子力規制委員会のホームページに、「新規制基準」とは何かということを説明する文書が掲載されていて、IAEAモデルの1~3層に当たる部分が強化されています。 しかし本来は、以前からやっておくべきことばかりです。やらなかったから津波にやすやすと突破された。基本中の基本の第一層があまりにも脆弱だったということです。

田中 三彦
(Mitsuhiko Tanaka)
1943年、栃木県生まれ。1968年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。同年バブコック日立入社。福島第一原子力発電所4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。1977年退社。2012年、東京電力福島原子力発電所国会事故調査委員会委員。翻訳家であり、科学評論家、サイエンスライターでもある。
『科学という考え方』(晶文社)、『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、『空中鬼を討て』『複雑系の選択』(以上、ダイヤモンド社刊)などの著書がある。
おもな訳書には、『複雑系』(M・M・ワールドロップ、共訳・新潮社)、『スピリチュアル・マシーン』(R・カーツワイル、翔泳社)、『デカルトの誤り』(A・R・ダマシオ、ちくま学芸文庫)、『無意識の脳 自己意識の脳』(同、講談社)、『感じる脳』(同、ダイヤモンド社)、『たまたま』(L・ムロディナウ、ダイヤモンド社)などがある。

広瀬 つまり、いままで日本の原発は事故対策が穴だらけだったので、今回どさくさに紛れて、当然やるべきことの、ほんのいくつかに手をつけただけですよね。

田中 そしてその1~3層の上に、前回連載で触れた「シビアアクシデント」対策が記載されています。4層にあたる部分、格納容器の破損とか水素爆発の防止策などです。

おそるべき九電の正体!
約22分で原子炉炉心が溶融する!

広瀬 この新規制基準の審査はどのように行われてきましたか。

田中 2014年3月号の雑誌『科学』(岩波書店)に、「不確実さに満ちた過酷事故対策――新規制基準適合性審査はこれでよいのか」(井野博満、滝谷紘一)に、川内原発・伊方原発・高浜原発・玄海原発など、再稼働の対象になっている加圧水型原発(PWR)の審査のやりとりが書かれているのですが、この内容はかなり衝撃的です。

 原子炉に直結している大口径配管(一次冷却水配管など)が破断し、何らかの原因で交流電源(外部電源と非常用交流電源)が失われた場合、配管の破断で冷却水が失われてゆき、しかも電気がこないために緊急炉心冷却装置のポンプが動かず、格納容器スプレイ装置も動かないという最悪の事態になります。
 九州電力によると、佐賀県にある玄海3・4号機の場合、わずか約22分で原子炉の炉心が溶融するという事態に突入します。たった22分ですよ。