人民元切り下げに端を発する世界同時株安の余波が続いている。中国景気の減速に歯止めがかからないこと、そのことがさらなる人民元切り下げ観測をかき立てて、新興国や資源国だけではなく先進国をも巻き込んだ調整に発展している。

 中国をここまで追い込んだ一因が、米国の出口戦略にあることは言うまでもない。過去にも基軸通貨ドルの政策金利引き上げは常に世界金融市場に極度の緊張をもたらしてきた。米国の利上げを直接的または間接的要因として1987年にはブラックマンデーが、97年にはアジア通貨危機が、2007年にはサブプライムローン危機が発生している。

 ドル安・低金利を背景にハイリスク資産に流入した過剰流動性が、利上げによって逆流することで通貨や株式、商品、不動産などの大幅な価格調整をもたらすからだ。最悪の場合、債務危機や銀行危機などを通じて金融システム問題に発展し、先進国もそれに巻き込まれるとの連想がパニック的な売りを招いている。

 しかし、危機を経てドル融通などの国際的なセーフティネットが構築されてきたこと、銀行セクターの健全性が高まっていること、先進国の内需を中心とする景気回復メカニズムが途切れていないことなどから、加速度的に危機が顕在化する可能性は極めて低いのではないか。

 世界第2位の経済大国“中国”という言葉に懸念ばかり先立つが、世界経済の限界的な稼働率(または需給ギャップ)に影響を与えるのはあくまでも超過需要であって経済の規模ではない。世界で唯一巨大な超過需要を生み出している米国の景気減速は世界景気に多大な影響を与えるが、中国は原材料・部品などの中間財輸入を除くと最終財において超過需要を生み出しているわけではない。

 唯一資源のみ巨大な超過需要を生み出しているためコモディティ価格は中国の需要に影響を受ける。中国が仮にゼロ成長に落ち込んでも世界経済が実質的に景気後退に陥る可能性は低いだろう。