ゆうちょ銀行への預入限度額を現行の1000万円から2000万円に引き上げるという「郵政事業見直し案」についての議論がどうも腹に落ちません。その理由は、閣内不一致の話題や、鳩山首相の言動不一致、さらには首相のリーダーシップの欠如などの周辺議論が活発である一方、なぜこうした見直しが必要なのか、預入限度額の算定根拠は何か、などという本質的な議論が見えてこないからなのだと思います。
「経営環境が厳しくなっている郵便事業を、拡大が見込める金融業務で補完し、郵便・貯金の全国一律サービスを維持する」というのが、メインシナリオだと思うのですが、リーマンショック以降、既存の民間金融機関ですら厳しい業務環境が続く中、金融業務の拡大はそう簡単なものではありません。
また、郵便事業が厳しくなっていることは、インターネットなどの情報ネットワークの発展や、携帯電話などコミュニケーションツールの変化、更には民間宅配業者など競合他社の事業の拡大など、ライフスタイルの変化が大きく影響しているからではないでしょうか。
こうした点を踏まえると、いま郵便事業に必要なのは、「資金」よりも、「戦略(意思)」だと思うのです。
ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げについては、地方の中小金融機関からの預金流出が懸念されています。鳩山首相は、ゆうちょ銀行への資金集中が起これば預入限度額を見直すことも示唆していますが、そもそもそうしたリスクを熟慮、検証したうえで、預入限度額は決められるべき話であり、この発言には場当たり的な印象がぬぐえません。
私たちが普段何気なく預けているお金ですが、郵政事業見直しの議論の中、ゆうちょ銀行へ預けられた預金の約8割が日本国債で運用されている、ということを初めて知った人も多かったのではないでしょうか。
預金者自身が、「自分の預けたお金の行く先(何に使われているのか)までを考え、預入先を決める」という“預金行動”を考えるきっかけになるのであれば、今回の郵政事業見直しの議論は、地方・地域に根ざす中小金融機関にとっても、地域の預金者(=住民)にとっても、自立経済システムを構築するチャンスかもしれません。
グラミン銀行に学ぶ、
地域支援の本質
先日、私は大学の研究プロジェクトでバングラデシュに行ってきました。アジア最貧国とのイメージがある同国ですが、実際に訪れてみると街中に若者と車が溢れ、活気に満ちていました。一方、こうした華やかな光景とは対照的に、スラム街の厳しい生活状況も随所に垣間見ることもできました。