「秋の味覚」の代表選手、サンマの価格が高騰している。初競りでは1尾当たり2300円の最高値を付けた。その背景にあるのは、中国や台湾による乱獲だ。日本は漁獲量を制限する“国際的な枠組みづくり”を主導するが、中台が乱獲を改めるつもりはない。日本の水産資源管理に課題が突き付けられている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
「年々、サンマの仕入れ値が高くなっています。シーズン初めは、赤字覚悟でメニューを提供しています」
東京・飯田橋に居を構えるある海鮮居酒屋。店内のにぎわいとは裏腹に、店主の表情はさえない。
メニューに載っているサンマ料理は、刺し身と塩焼きだけ。しかも、客の注文が殺到するので、閉店を待たずに売り切れてしまう。
実際に、サンマの価格は高騰している。7月、全国のトップを切った釧路漁港の初競りでは、1キログラム当たり1万5500円と、過去10年で最高値となった。1尾当たり2300円というから、もはや庶民の魚とは名乗れまい。
日本のサンマの漁獲量は、2008年の34万トンをピークに減少に転じ、14年は22万トンと6年間で3分の2へ落ち込んだ。記録的な不漁が続いている。
なぜか。中国や台湾の漁船が、日本の排他的経済水域のすぐ外側の「公海(どこの国にも属さない海)」でサンマを乱獲し始めた結果、日本近海へやって来るサンマが激減しているからだ。
サンマは、夏から秋にかけて太平洋沖から日本近海へ移動する回遊魚である。日本では近海へやって来たサンマを捕っているのだが、中台は、日本に来る前の、公海で泳ぐサンマを“先捕り”しているのだ。
中台によるサンマ漁獲量は急増している。中国は7万トン、台湾に至っては23万トン、日本を抜いて世界一のサンマ漁獲量へ躍り出た。
日本はサンマ漁を自国の排他的経済水域で行っているが、中台の排他的経済水域ではサンマは捕れない。彼らがわざわざ遠洋まで船を出し、公海で漁を行うのはそのためだ。
かといって、日本が公海へ出てサンマ漁を行うという選択肢は、現実的ではない。「公海までは400キロメートルも離れている。鮮度を保つために冷凍保存するしかないが、日本人は冷凍物を好まない」(水産メーカー幹部)からだ。