「ボツアイデア」が多い人ほど、クリエイティブである

博報堂にいたころには、僕もずいぶんとたくさんのコピーライターと仕事をした。
糸井重里さんだとか仲畑貴志さんのような超一流の方から、まだ駆け出しの「コピーライター見習い」のような人まで、じつに幅広くおつき合いする機会があった。

その中で気づかざるを得なかったのは、やはり「アイデアの質の高さ≒アイデアの量の多さ」であり、一流と言われる人ほど発想量が多いということである。

たとえば僕が、「来週までにこのテーマで、100本コピーを書いてきてください」と注文したとき、トップクラスのコピーライターというのは、本当に100本のコピーを仕上げてくる。おそらく普段から発想を広げる習慣があるから、発想の数を増やすことが苦にならないのだろう。

逆に、こう言ってはあれだが、三流、四流のコピーライターというのは、まず間違いなく100本書いてくることはない。何かあれこれと理由をつけて、「いいアイデアだけを厳選しました」とうそぶくのである。
だが、その中に光るコピーが見当たるかというと、まずそういうことはない。

要するに、三流の「自称クリエーター」ほど、ひらめきの力を過信しており、自分は質の高いアイデアをポンと出せると思い込んでいるのである。だから、彼らに「なぜこのコピーがいいのですか?」と質問しても、「なんとなく、これってセンスよくないですか?」というような答えしか期待できない。

一方、優れたアイデアを出せる人は、自分の直感力に信頼を置いていない。
一流のクリエーターほど、愚直に考えて発想の数をギリギリまで増やしているのである。

だから彼らは、アイデアに対するアカウンタビリティー(説明能力)も高い。
「なぜこれがいいのか」を言葉でクライアントに説明しなければならない広告代理店の側からすれば、これほど仕事がしやすいことはない。
「なるほど、こういう人に依頼が集中するわけだ」と納得したのをよく覚えている。

第5回に続く)