単価が安いものを売っているのに
なぜか儲かっているはちみつ屋
「TVショッピングではちみつ、ですか」
「そう、1個980円の国産はちみつを3個セットで2000円! お得です! って売ってたの。それを見て、岡之上社長は思ったんだって。
『あんな安いものいくら売ったって儲からないだろうに』って。
通販の中でも特にTVショッピングは、商品を出すだけでも相当高いお金がかかるのに、『あいつバカじゃないのか?』って、内心笑っていたそうなの」
「確かに、2000円と1万円じゃ、けっこう違いますよね」
「でもね、そのはちみつ屋の社長が、会うたびになんだか羽振りが良くなっていくんですって。それまでは全然しゃれっ気のない、いかにも零細企業の社長って感じだったのに、突然高いスーツを着るようになったり、国産車から外車に乗り換えたり、高級時計をするようになったり。
岡之上社長はそういうところ目ざとい人だから、『どうもおかしい。あいつ、そんなに儲かっているのか?』って気になって仕方なくなったらしいの。そして、その社長と親しくなって『一度遊びに行かせてもらっていい?』って頼んだんですって。
そしてある日、そのはちみつ屋の会社を訪問したの。そしたら……」
「そしたら?」
洋介は身を乗り出して聞いた。
「その会社はなんと、はちみつを買ったお客さんに、高単価なローヤルゼリーとプロポリスを売っていたのよ」
「ローヤルゼリーとプロポリス?」
「そうよ。ローヤルゼリーは1ヵ月分で6800円。プロポリスは1万5000円。つまり、はちみつは通販の入口、「おとり」に過ぎなかったのね。3個で2000円のはちみつを買ってもらって、まずお客さんとの繋がりをつくり、そこから本命の高額商品であるローヤルゼリーとプロポリスをずっと買い続けてもらうのが本当の狙いだったのよ」
「ずっと買い続けてもらう……」
「そう! はちみつ屋のビジネスモデルは、実はものすごい高収益だったのよ。ローヤルゼリーやプロポリスは1回きりじゃなく、継続的に買って摂取し続けるものじゃない? だから年間で計算すると、一人のお客さんがそのはちみつ屋から購入している金額は10万円を軽く超えるわ。それは岡之上社長の1万円の磁気ネックレスより、ずっと高い金額だったのよ」
「すごい……」