儲かっている会社の共通点、それは努力で儲けているのではなく、「儲かる仕組み」があります。
「儲けるなんて、簡単よ」これが口癖の敏腕経営コンサルタントの遠山桜子、45歳。彼女がふとしたきっかけで知り合った、つぶれかかったカフェの店長に「儲ける仕組み」とは何かを、具体的な事例とともに解説するというストーリー。3回目の今回は、はちみつ屋と宝石店、どっちが儲かるか? です。
はちみつ屋が宝石店よりも儲かるのはなぜか
遠山桜子は、生まれも育ちも東京の下町だ。その下町気質がついついおせっかいを焼いてしまうのだろうか。それとも洋介の自信なさげな八重歯とえくぼのヒゲ面の笑顔に、情がわいてしまったのだろうか。いやいや、あの絶品スープカレーが食べられる、この近辺で唯一の深夜営業店をみすみす潰れさせてしまうには惜しいと考えたのか……。
なんだかわからないけれど、とにかく(がんばってほしい)という気持ちがわいてくる。こうなると桜子は止まらなかった。
このつぶれそうなカフェの店長に、儲かる仕組みを伝えたい。そして自分の頭で考えて、自分なりの儲け方を見つけてほしい、そう思った。そうだ、あの話をしてみよう。
「たとえばね」
「私がお世話になっている社長が、以前テレビショッピングで磁気ネックレスを売っていたときの話よ」
洋介は、洗い物の手を止め、話に聞き入った。
「その社長、岡之上さんっていうんだけどね、もともとは、宝石を売っていた人なの。バブルの時代には、TVショッピングでも、サファイヤの指輪が49万8000円、エメラルド2カラットのブローチが29万8000円、そういう高額な商品が飛ぶように売れていたんですって」
「すごいですね。バブルかあ……。経験してみたかったです、そんな時代」
「そうよね、知らない世代の人には想像もつかないわよね。当時は普通のOLでも、高い宝石やブランドバッグはたくさん持ってた時代だったのよ。でも、バブルがはじけてからは宝石はまったく売れなくなって、岡之上社長の会社も毎月毎月どんどん売上が下がっていったそうよ。
そこで、岡之上社長は、
『もう、綺麗さやかわいらしさで高い宝石が売れる時代ではない。これからは【問題解決できる商品】にチャンスがある!』
と考えた」
「問題解決、ですか?」
「そう。デザインの美しさではなく、それを使うと健康になるとか、何か困っていたことが解消されるとか、そういうことよ。これはアイディアの出し方の大きなヒントのひとつね」
「なるほど……」
「そこで、岡之上社長は『磁気ネックレス』をTVショッピングで売り出したの。価格は1万円。宝石じゃなくメッキに磁石が入ってるのよ。そうしたら、反応が100倍になったんですって」
「100倍!?」
「これまで30万円の宝石が1個売れていたのに対して、1万円のネックレスが100個売れたってことよ。売上は大幅増よね。当時、岡之上社長がテレビに出ると、注文の電話が鳴り止まない状況だったそうよ。実際かなり儲かってたんですって」
「へえー、そんな人気だとは、それはすごい話ですね!」
「でも、これで驚いちゃ駄目よ。すごいのはそれだけじゃないの。それでね、同じ番組枠で、はちみつを売ってた会社があったの」