ハーバードビジネススクールの選択科目「戦略とテクノロジー」の授業でグリーの事例が人気を集めているという。この授業を教えているのが、同校の戦略部門で最先端の経営戦略を研究しているアンドレイ・ハジウ准教授だ。

ハジウ教授はマルチサイドプラットフォーム研究の第一人者として知られている。マルチサイドプラットフォームビジネスとは、複数の利用者が直接取引できる場を提供するビジネスのこと。その形態は技術、製品、サービスなど様々だが、売り手と買い手が自由に売買できる場所とシステムを提供し、利用料や広告料等で儲けるビジネスだ。

なぜDeNA、ガンホーではなく、グリーの事例を授業で取り上げるのか。日本のiモードが世界標準にならなかったのはなぜか。ハジウ教授に聞いた。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月24日)

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グリーのプラットフォーム事業、
日米で明暗が分かれた背景

アンドレイ・ハジウ Andrei Hagiu
ハーバードビジネススクール准教授。専門は経営戦略。マルチサイドプラットフォーム(多面的プラットフォーム)研究の第一人者。2004年から2005年まで独立行政法人経済産業研究所(RIETI)研究員。ハーバードでは“GREE, Inc."(2012), “Responding to the Wii?” (2009), "Roppongi Hills: City Within a City."(2007) 等、日本企業についてのケーススタディを数多く執筆。2015年には慶應ビジネススクールにて特別講演を行った。主な著書に“Invisible Engines: How Software Platforms Drive Innovation and Transform Industries”(The MIT Press, 2006)、最新の寄稿論文に“Strategies for Multi-Sided Platforms” (Sloan Management Review, 2014), “Do You Really Want to Be an eBay?” (Harvard Business Review, 2013)がある。
(c)Getty Images

佐藤 最近ではグリーのケースを執筆されています。DeNA、ガンホー等、日本には他にもモバイルゲーム会社がありますが、なぜグリーに注目したのでしょうか。

ハジウ 私がグリーを選んだのには、明確な理由があります。それはグリーが日本で「プラットフォーム」として成功していた会社だったからです。そこが他のゲーム開発会社との大きな違いです。

 グリーはかなり早い段階から世界進出をめざしました。しかもゲーム開発会社ではなくプラットフォームとして進出しようとしました。日本での成功体験をもとに、国外でもユーザーと他のゲーム会社を結びつけるプラットフォームを提供しようとしたのです。

佐藤 ビデオゲームの分野ではソニーや任天堂が成功していますが、モバイルゲームの分野でプラットフォームとして進出しようとしたのはグリーが初めてだったということですね。

ハジウ もう1つの理由があります。私たちが教材を執筆していた2011年から2012年、グリーはアメリカでも注目されるようになっていたことです。日本のソフトウェア企業がアメリカ進出に成功するのは難しいと言われていますが、グリーがアメリカでどのように成長していくのか、非常に興味を持ちました。

佐藤 グリーは2011年にアメリカ進出後、プラットフォーム事業に挑戦しますね。

ハジウ グリーは、アメリカでアンドロイドやiOS上でプラットフォームサービスを提供することにしました。当時のアンドロイドやiOSは、一般ユーザーを対象としたプラットフォームを提供していたため。ゲームユーザー用のプラットフォームはなかったのです。そこにグリーは目をつけました。ユーザーがグリーのゲームを楽しむためには、既存のプラットフォームの中に専用のアプリケーションプログラミングインターフェイス(API)が必要だと考えたのです。