ダイヤモンド社刊
2310円(税込)

「今日もっとも困難な試練に直面している先進国が、この半世紀間社会としてもっともよく機能してきた日本である」(『明日を支配するもの』)

 1999年、日本がバブル崩壊で閉塞状態にあるとき、ドラッカーはこう言って日本にエールを送った。「日本は、働く人が動かないようにすることによって、歴史上類のない成功を収めた」。

 それが終身雇用制だった。ドラッカーは、終身雇用制のメリットとして人と人の絆を重視した。

 しかし、知識が中心の社会では移動の自由が不可欠だ。そこでドラッカーは、日本が社会的な安定、コミュニティ、調和を維持しつつ、人の移動の自由、すなわち転職の自由を実現することを願った。人を大事にする伝統を守りつつ、社会の秩序を失わせない程度の転職の自由を加えることはドラッカーの理想であった。

 ドラッカーは、これらのことを、日本人を喜ばせるために、「日本版」に書いたのではなかった。全世界向けの本文中で書いた。このことをもってしても、ドラッカーの日本への期待の大きさがうかがえる。

 2006年、バブル崩壊を乗り越えつつある日本の労働市場は“ 売り手市場”に変わり、転職の自由が実現し始めた。ドラッカーの期待に背かないためにも、人を大切にする日本の伝統を失ってはならない。

「日本も、今日の姿とは違うものになるであろう。あらゆる先進国が今日の姿とは違うものになる」(『明日を支配するもの』)