かといって益軒は“べからず”ばかりの堅苦しい人間ではなかった、と前述の山崎氏は解説する。

「みづから楽み、人を楽まめて、人の道を行はんこそ、人と生まれるかひ(甲斐)有りて」

 81歳の著作『楽訓』の一節である。『養生訓』が体の健康書なら『楽訓』は心の健康書。どちらも人生の本質を楽しみとする哲学で貫かれている。「益軒にとっては、長命は目的ではなく、“楽しむ人生”のための一つの手段だった」と山崎氏は言う。

「怒ってから食事をしてはいけない」「心配事をしながら食べてはいけない」「体を動かし」「心を平静に」「毎日に楽しみを見つける」

 そんな当たり前のことが書かれた『養生訓』は300年前の知恵の宝庫。現代は当たり前のことがわからなくなる時代だ。時々は深呼吸するような気持ちで古い本を開きたい。昔の人たちがいろんなことを教えてくれる。

※参考文献/『老いてますます楽し 貝原益軒の極意』山崎光夫著