突然電話に知らない番号からかかってきて、「今の仕事に満足していますか?」「あなたにはもっとふさわしい職場がある」と言われたら、あなたならどう思うだろうか。
自身もヘッドハンターの経験があり、ビジネスパーソンの「市場価値」を研究している藤田聰氏によると、「ヘッドハンターの誘い文句に浮かれてしまう人は要注意」だと言う。
転職の誘いに舞い上がるのは
現状に不満があるから
景気が上向いているせいなのだろうか、特に大手企業で働く30代前半のビジネスパーソンから、転職相談を受けることが多くなった。
実際、人材紹介による転職は年々増えている。矢野経済研究所による「人材ビジネス市場に関する調査結果2014」によれば、2014年度の人材紹介市場の規模は2013年度比111.5%の1450億円になると予測されている。
先日、大手総合電機メーカー勤務の浅田さん(仮名、33歳)が「相談がある」というので会ってみると、舞い上がった調子で話してくれた。「生まれて初めてヘッドハンターから電話があり、転職の誘いを受けた。自分が評価されていると思うと、純粋に嬉しい。今いる会社の先が見えてきたので、悩んでいるところだった。条件もよさそうで、絶好の機会かもしれない」。表情は有頂天面だ。
率直に言って、彼と話して10分もしないうちに、「この転職は失敗する」と直感した。なぜなら、ヘッドハンターの誘い文句に対して、あまりにも浮かれていたからだ。
確かに突然のヘッドハンティングで「あなたはもっと評価されていい」「あなたを必要としている会社がある」などと褒められて、舞い上がる気持ちもわかる。ただこの手の誘い文句に強く魅かれるのは、「現在の職場に不満を持っている」人だ。現状に満足している人なら、そこまで心は動かない。
「会社からは評価されているものの、今いる環境ではやりたいことができない」「周りから刺激を受けられない」というような前向きな不満なら別だが、浅田さんからは「会社は自分のことを全然評価してくれない」という後向きな態度を強く感じた。このままいくと浅田さんは、新天地でも同じように不満を持つ可能性が高い。周囲の評価は、往々にして客観的で正しいからだ。
ヘッドハンターの報酬体系を知れば
誘い文句も冷静に受け止められる
浅田さんのように初めてヘッドハンターと会うという人がいたら、誘いに浮かれないためにぜひ知ってほしい事実がある。彼らの給与体系は、成功報酬であることが多いということだ。
一般的には、決定年収の30%前後がヘッドハンターの売上高になる。例えば、転職者が600万円のポジションに決定して入社すると、180万円(30%の場合)売上高を立てたことになる。決まらない、もしくは、決まっても入社を辞退された場合は0円だ。
売上高に応じて給料が支払われるのだから、ヘッドハンターが転職を勧めてくるのは当然のことだ。現在では悪質な人はほとんど見かけないが、インターネットが普及する前は、求職者に平気で「毒まんじゅう」(今でいうブラック企業)を喰わせよう(転職させよう)とする人がゴロゴロいたものである。
理髪店に「髪を切るべきか」と聞けば「切るべきだ」と答えるのと同じ。彼らの意見は冷静に、客観的に受け止めるべきである(もちろん客観的な意見をくれる信頼すべきヘッドハンターもたくさんいるが)。
転職したいなら、
今いる企業の「上位2割」になれ
転職が「悪」だと言うつもりはない。前向きな理由によるものであれば、是非検討すべきである。いちばんよい転職は、取引先からの引き抜きだろう。お互いの仕事ぶりが評価され、好条件での転職が期待できる。
複数のヘッドハンターと話すと、「うまくいった転職は2割、うまくいかなかった転職は8割」と言う人が多い。この数字は筆者も正しいと思う。どんな組織も、優秀な2割、凡庸な6割、優秀でない2割に分かれるという「2:6:2の法則」とも合致している。転職したいと思うなら、まずは今いる企業の上位2割を目指して、あなたの市場価値を高める努力をしてほしい。