中国人のいわゆる「爆買い」など、インバウンドビジネスが活性化して久しい。そんな中、京急電鉄は過去最高益を更新、10月21日には開業5周年を迎えた羽田空港国際線ターミナル駅の駅ナカに、マツモトキヨシ、ラオックスを誘致・オープンさせた。京急電鉄のみならず、マツモトキヨシなどにも話を聞いて分かった「インバウンド勝ち組」の持つ共通の戦略とは?

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 京急電鉄も、マツモトキヨシも、訪日旅行客の増加にすぐ気づいたわけではなかった。マツモトキヨシの成田一夫社長が、筆者のインタビューに答えて言った。

「札幌や大阪の店で売り上げが一気に伸びるなど、営業成績に明らかな異常値が出たんです。理由を調べるとすぐ『外国人観光客が増えてるようだ』とわかりました。店舗によっては、店の前にバスが着いて、外国人のお客様がスーツケースに入りきらないほど商品をご購入いただいていたケースもあったようです」

京急電鉄の羽田空港国際線ターミナル駅は、人気店舗の誘致のみならず、ハイレベルのサービスを誇るコンシェルジュもウリ。口コミ効果こそ、インバウンド需要を取り込む秘訣だ

 京急電鉄も同じだった。羽田空港国際線ターミナル駅には、カフェやリラクゼーション施設のほか、京急電鉄のグループ会社・京急ステーションコマースが経営するセブン-イレブンが入っていた。京急ステーションコマースの佐々木忠弘取締役は、最初にセブンでの異変に気づいたという。

「2011年頃までは、外国のガイドブックや携帯電話の充電池が売れるなど、アウトバウンド――国内から海外へ行くお客様向けの商品中心に売れる店でした。しかし14年3月の国際線発着枠拡張以降、特に抹茶のお菓子や美白化粧水などが売れ始めたんです」

 抹茶のお菓子は外国人が帰国する時のおみやげの定番だ。美白化粧水は、台湾のSNSなどで評判になっていた商品だった。しかも、セブンでしか買えないプライベートブランド版が出て、これが台湾で垂涎の的となった。

「現在はこの美白化粧水を、通常ではあり得ないほどの数を置いていますが、それでも『ダンボールごと買いたいんですが、在庫はありませんか?』というお客様がいるほどです」(佐々木氏)

 このあと、両社は店舗のレジを免税対応させるなど、それぞれインバウンドの拡大施策をとっていく。2社の施策にはたまたま、共通点があった。いずれも「何が売れるかわからない」ことを意識し、他店舗やネットの情報を元に、試行錯誤を繰り返したのだ。

 例えば、マツモトキヨシでは「熱さまシート」がよく売れた。成田社長は「中国など、海外にこのような商品はなかったからではないか」と分析する。また、京急電鉄の羽田空港国際線ターミナル駅のセブンでは、なぜか、サーモスの真空断熱の水筒がよく売れているという。京急の佐々木氏が話す。

「日本人は、コンビニで水筒を買う習慣はあまりないと思います。しかし、外国人観光客が多い店などをまわって『水筒が売れている』と知り、仕入れてみたらよく売れたのです。空港に到着した外国人旅行客が、余った日本円で買って行く需要があったのかもしれません」