民間投資の拡大を政府が「要請」
確かに企業には余力があるが…

企業の潤沢な資金が投資に回らないことに政府はいらだっているが…

 10月16日、安倍首相を筆頭とする政府首脳と、経済界の代表が対話する「官民対話」の会合が開かれた。この席で、安倍首相は、民間企業に対して設備、人材、研究などへの投資を拡大するように要請した。

 投資の意思決定は企業経営の根幹であり、強制力を伴うものではないとはいえ、政府が口を出すことに違和感を持つ向きが少なくなかった。

 現政権に好意的と思えるメディアである日本経済新聞社でさえ、10月18日付けの社説で「企業の意思決定に政府が介入しては困る」と題して批判を述べた。「政府の圧力を受ける形で、企業が無理をして投資を拡大すれば、肝心の競争力が低下する心配がある」「経営の意思決定は個々の企業が下し、国の圧力や統制は排除するのが自由主義経済の基本だ」と述べているが、正論である。

 ここのところ、経済は停滞気味であり、直接的な要因として民間企業の設備投資の低調があることは間違いない。設備投資の先行指標である機械受注は8月に対前年比マイナス3.5%と大きく落ち込んだ。景気の落ち込みを避けたい安倍政権として、企業に投資を拡大してほしいと考える気持ちは分からなくもない。しかも、日経は「無理をして投資を拡大すれば」と言うが、企業の手元資金は潤沢であり、投資の余力は十分ある。

 もっとも、政府としては強制力のない一般論を述べただけなので、この要請が深刻な批判の対象になるとは思っていないだろう。

 筆者が気になったのは、「経済界の代表」として対話のメンバーに選ばれた企業と政権・政府との関係だ。