第3番目の論点は、「インボイスは事業者間取引の価格転嫁を完全にする」ということである。

 インボイス制度の下では、事業者間(AとB)の価格は税抜き価格で交渉される。消費税は、税抜き価格に8%を乗じてBからAに支払われるが、Bはのちに同額控除され、自ら負担をすることがないので、消費税分は相手側に完全に転嫁できることになる。

 現在わが国は、請求書など取引の事実を証明する書類を用いて、売上に係る消費税額から仕入れにかかる消費税額を控除する請求書等保存方式をとっている。

 この制度のもとでは、事実上、売上から仕入れを差し引いた差額(つまり粗利)に108分の8を乗じた額が、消費税の納付税額になる。そのため、事業者から見れば、「粗利に課税される直接税」という認識になりがちで、事業者間での転嫁が困難になりがちだ。転嫁対策特別法を2本もつくって対応していることが、その証左である。転嫁を容易にするためにも、インボイスの導入をする必要がある。

 第4の論点は、「免税事業者は消費税を納入しないためインボイスが発給できないので、取引から排除される」という点について。確かに、個人タクシーのような免税事業者は、消費税額を別記したインボイスを発給することはできない。事業用の都合でタクシーに乗るには、インボイスが発給される法人タクシーに乗れ、と会社の経理から指示が出そうだ。

軽減税率を導入するくらいなら
インボイスを勝ち取るべき

 本当にそうなのだろうか。

 欧州にもわが国同様の免税事業者という制度があり、小規模農家や小規模事業者は消費税の納税義務を免除されている。しかし彼らの多くは、免税という「特権」を放棄して「課税選択」をしている。

 免税事業者のままだと、仕入れに係る消費税額は控除できず、価格転嫁できなければ自ら負担せざるを得ない。しかし、課税選択をすれば、仕入れにかかる消費税分の控除ができるのである。その際インボイスが、課税選択の手間を簡単にしてくれる。

 また、「益税」を防止することになる。現行制度では、免税事業者からの仕入れについても、仕入れ税額控除が認められている。先ほどの図1で言えば、売り手が納税していない(する必要がない)のに、買手は税額控除ができるのである。このような「益税」を防止するためにもインボイスは必要だ。

 政治ポピュリズムとしか言いようのない軽減税率が、税制の論理を超えた政治の腕力で導入される。そうであるなら、かねてからの懸案であったインボイスの導入を勝ち取り、消費税制度だけでなく税制全体の信頼度を上げることが重要だ。