Photo by Shinsuke Horiuchi

現代リーダーの条件

 企業の大変革をリードするトップとは、どのような資質や能力を備えた人材であるべきなのか。

 経済も企業業績も右肩上がりの時代であれば、このような課題に深く悩む必要はない。しかし、ビジネスモデルが5年と持たず、かつグローバルな戦いを強いられる時代では、トップの人材像を明確にして育成策を練り上げておくのは、持続的な成長のための喫緊の課題である。

 現代の企業トップに求められる最も重要な資質とは何かと問われれば、私はためらうことなく「多様性」であると答える。

 一つ分かりやすい例で考えてみよう。「会社は誰のものであるか」という昔からの議論がある。この原稿を読んでくれているあなたならば、なんと答えるだろうか。

 アメリカのビジネス社会では、「株主のものだ」が圧倒的だろう。だが、日本では、「株主だけでなく従業員や社会のものだ」の割合がグンと増えるはずである。

 あなたがアメリカにある現地法人の社長を命じられ、たった一人の日本人として経営を仕切らなければならないとしたら、この問いに対する考え方次第で組織づくりも人材づくりも大きく変わるはずである。

 どちらが正しいのか。

 正しい答えなどない、と私は思う。風土も歴史も違う国で、同じ答になどなるはずがない。アメリカ式の経営には、トップダウンによる迅速な意識決定や人材の流動性など効率的にビジネスを展開する素地があり、それは株主主権をベースに育まれてきた手法だ。

 だが、従業員の会社へのロイヤルティーは低く、日本式経営のようなチーム力を発揮させる基盤はない。その日本式経営は、身内の親和性が大事にされるあまり株主の存在は軽んじられる傾向があった。ヨーロッパ式は、日米の中間ぐらいだろうか。

 大事なことは、「自分が知っている景色とは別な景色が世界には多数存在する」という幅広い認識と、違いを受け入れて考える謙虚さ、そして誰もが信頼できる言葉を紡ぎ出す見識である。それを「ダイバーシティ」という。

 別な側面でもダイバーシティは重要だ。トップのミッションレベルが極めて高度になり、人任せにはできなくなっているからだ。

 社長就任に際して、「君には経営企画の経験はないが、そこは有能な副社長をつけるから」と言われることがある。「それならば、やれるかもしれない」と受諾する人もいる。

 しかし、今や、それは許されなくなっている。事業、技術、IT、M&Aやファイナンスなど社長が行うべき決断は一つとして気の抜けないものばかりである。これらについて一通りの見識を持っていなければ経営は停滞する。有能なスタッフをつけるとしても、よほど一心同体的に動けるコンビでなければ有効な決断はできない、というのが私の実感だ。

 経営のベーシックな事柄はすべて理解している素地がある上で、人として組織を動かせる人でなければいけない。経営の基礎知識があって人の器もある人材である。そのような人材になるには、多様な経験、つまりいわゆる「ダイバーシティ」が不可欠なのである。