旭化成建材が杭の施工データを改ざんしていた問題が、旭化成全体に暗い影を落としている。30年続いてきた会長による“院政経営”から脱しようとする新体制が、船出から大嵐に見舞われた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

右、左上、左下の順に、10月20日の会見、11月2日の会見、11月6日の決算説明会の様子。10月14日に横浜市のマンションで杭工事のデータ改ざんが発覚してから、旭化成は謝り通しだ Photo:JIJI

 11月6日、旭化成の2016年3月期中間決算の説明会が、あと10分で始まろうという午後1時50分。会場そばの人けのない廊下に、財務担当の小堀秀毅専務がじっと佇んでいた。携えたピカピカの決算書の中身とは裏腹に、小堀専務の表情はこわばっていた。

 そのギャップは、ケミカルやヘルスケアなど、さまざまな事業領域で高いシェアを握る優良商品を引っ提げながらうなだれる旭化成グループの営業マンたちの姿と重なるものがあった。

 旭化成の子会社である旭化成建材が全国各地で建物を地中で支える杭の施工データを改ざんしていた問題が今、旭化成全体に暗い影を落としている。

 きっかけは10月14日、横浜市都筑区の大型マンションの西棟が傾いていると発表されたことにある。原因はいまだはっきりとは判明しておらず、旭化成建材が工事を行った杭の打ち込みなどに不備があったと推定されるにとどまっている。とはいえ、データを改ざんしていた事実によって旭化成ブランドは大きく毀損し、現場の管理体制にも疑問符が付いた。

 10月20日の会見では、浅野敏雄社長が時に涙を浮かべながら陳謝。同月22日には旭化成建材が過去10年間に行った杭工事3040件の全調査に着手すると発表したものの、事態は収束するどころか、この後、一層紛糾した。

 当初は横浜市のマンションの現場責任者個人の手によるものとも思われた改ざんに、他の現場を含め複数の人物が手を染めていたと判明。その上、予定していた調査報告が内部調査や元請けの建設会社との確認・照合作業の難航でまとめられず、発表が直前に中止となるなど、旭化成に対する世間の不信感と失望感が募ったのだ。

 株価は問題発覚前に比べて実に2割も落ち込み、経営責任を問う声が日増しに大きくなっている。

 それでも、業績は絶好調だ。11月6日時点で各セグメントに大きな影響は出ていない。「横浜市のマンションの建て替え費用などの“財布”にされるのでは」との業界予想もさもありなん、手元のキャッシュも9月末で1561億円と潤沢だ。通期予想は売上高2兆円、営業利益1640億円と、それぞれ過去最高の見通しである。