トップの責任逃れが目立つ
昨今の企業不祥事
本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
大企業の不祥事が続いている。東芝の不正会計問題、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題、そして三井不動産の横浜のマンション傾斜問題と、大きな不祥事が立て続けに起こっている。それ以外にも、食品関係企業の産地偽装問題は、相変わらず後を絶たない。
これらの不祥事が起こるたびに指摘されるのが、「バレたら会社の屋台骨を揺るがす事態になるのはわかっているのに、なぜ、そんなことをするのか」という点だ。
大抵の場合、その原因は「グローバル化によるライバルとの過熱競争」「大企業病」というレッテル貼りで終わってしまうことが多い。そして「本当に何が起こったのか」が検証されないまま問題は処理され、そして年月が経つと同じことが起こってしまう。
この「本当の原因」を調べるためには、当事者たちからの十分な聞き取りと精査が必要なのはいうまでもないが、大抵の場合はうまくいかない。当事者は、特に自分に非のある場合には、それを話したがらないし、自分の非を話そうとする者は、時に非合法な手段で口止めをされることもある。そのため、全貌はなかなか明らかにならない。
しかし、さまざま不祥事を比較し、そこに共通するファクターを洗い出すことで、こういった不祥事が「起こりやすい」土壌を特定することは、ある程度可能だろう。そして、ここ最近の不祥事に共通するファクターとして目立つのが「トップの責任逃れ」である。
VWの会長は不祥事発覚後、「これは一部の社員によるもの」と主張し、自身の関与を否定している。だが、さまざまな状況証拠を見る限り、その主張はにわかには信じがたい。特に不正プログラムは、非常に入念に作られており、問題の起こった米国だけでなく、他の国でのテスト走行の「くせ」をも自動的に検出できるようにカスタマイズされている。これは、下請けのボッシュ社が納入しているが、これだけ精巧なものを「一部の社員の独断」でできるとは到底思えない。
VWが検出テストを不正にパスすることを目的として、発注したと考えるのが普通だろう。ボッシュがその目的を知っていたかどうかは不明とされているが、ボッシュ側はVW社宛に「このプログラムは不正使用が可能なので気を付けてください」との警告文を送っている。これにより、ボッシュ側は「不正の意図はなかった」と主張している。
だが、第三者からみると、ボッシュはVWのせいにしようとし、VWはボッシュのせいにしようとし、CEOは一部の社員のせいにしようとする、という「責任のなすりあい」に思えてしまう。