新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、知られざる東大推薦について解説します。
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「東大推薦」とは何か
東京大学では10年前から「学校型推薦入試」が導入されています。通称「東大推薦」と呼ばれるこの制度は、毎年100人程度の定員で実施されており、合格者数でいえば理科三類(医学部進学者が所属する学部類)よりもレアな存在です。一般入試に比べると知名度はまだ高くないかもしれませんが、その実態を見ていくと、実にユニークな人材が集まっていることがわかります。
合格者たちの多彩な活動
「東大推薦」ではどんな高校生が合格するのでしょうか。私たちが調査したところ、合格者の活動内容は非常に多彩です。
・キンチャクガニの研究を行い、薬学部に合格した人
・ジェンダーレストイレに関する研究を進め、経済学部に合格した人
このように、一見すると大学の専門分野とは直接つながりが薄いようなテーマでも、自ら探究心を持ち、社会的な意義や将来の学びに結びつけている点が高く評価されています。単なる「受験勉強」だけでは測れない、その人ならではの強みや視点が選抜のカギになっているのです。
見えてきた2つの傾向
調査を通じて、東大推薦合格者には大きく2つの傾向が見えてきました。
1.地方出身の女性が多い
東大推薦合格者数のランキングだと、3位は秋田高校・4位は広島高校となっています(2025年度入試までの結果)。どちらもとても優秀な学校ではありますが、一般入試の合格者数ランキングでは上位30位以内に入っていない学校群になります。このように、地方の公立高校出身の人の割合が一般入試に比べて高いのが東大推薦の特徴です。また、女性比率も高く、地方出身の女性の受験生が多いと言えます。
東大全体での男女比は、依然として女性が3割を切っています。また、ここ10数年で東京・大阪といった大都市圏の出身者の割合は増加しています。そのため、「地方出身の女性が東大を目指す」というだけで希少性が高いといえるのです。推薦入試では、そうした存在が強く注目される傾向があると考えられます。
2.学力も高い
「推薦」と聞くと「学力はそこまで求められないのでは」と思う人も多いでしょう。しかし実際には、推薦合格者も一般入試レベルの学力を備えていることがわかっています。
共通テストの得点率 ― 一般入試並みの水準
私たちが実施したアンケートによると、推薦合格者の共通テスト得点率は次の通りでした。
9割~9.5割 50%
8.5割~9割 45.5%
8割~8.5割 4.5%
実に95%以上の受験生が8.5割以上を取っていたのです。これは一般入試の東大合格者の得点率(概ね9割前後)とほぼ同水準。つまり、推薦といえども「学力で劣る」わけではなく、むしろ一般合格者と同等のレベルを求められていることがわかります。
模試の結果 ― 偏差値50~55が多数派
模試の成績はどうだったのか?ということで、高3の秋に実施される東大の冠模試(東大実戦模試・東大オープン)についても調査しました。ここでも、意外な結果が出ています。
最も多かったのは「偏差値50~55」という層。「A判定」「偏差値65超」といった層も一定数存在。
高3の秋というと、推薦に向けた探究活動や志望理由書・面接準備に多くの時間を割いている時期の真っ只中です。模試対策に十分専念できなかったと考えられますが、それでも東大受験者の中で「偏差値50~55」を維持していたのは驚きです。また、A判定を取る実力者も含まれていました。「東大推薦入試は、東大の一般入試では受からない人たちが受けている」という言説もありますが、実際に調査するとそういうわけではなく、一般入試でも推薦入試でも合格する人が、推薦入試という枠組みを利用して合格しているというのが実情だと考えられます。
東大推薦入試は、合格者数こそ少ないものの、一般入試とは異なる観点で東大が求める人材像を浮かび上がらせています。
・地方の女性など、これまで東大進学が少数派だった層を積極的に取り込む
・探究活動や社会課題への関心を評価しつつ、学力も東大一般レベルを要求する
この二つの特徴は、今後の大学入試がどう変わっていくかを示す大きなヒントといえるでしょう。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)




