本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

「俺よりデキる人間は許さない」――。そんな歪んだ欲望を持つ人物が会社で人事権を握っていたら…

 管理職についているものならば、誰しも一度はリーダーシップについて勉強したことがあるだろう。研修やビジネス書、こういったwebコラムなど、リーダーシップについて勉強する機会は多くある。リーダーシップ論については、実にさまざまな人がさまざまなことを言っているので、網羅的に勉強するのは至難の業だ。

 しかし、リーダーシップが重要な理由はシンプルだ。それは組織を発展させて、維持するためである。その単純な目的を果たすのが、いかに難しいかは、読者の方々はすでにご存じだろう。組織が大きく複雑になればなるほど、求められるリーダー像も多様になる。一方で、小さな組織では、求められるリーダー像は比較的わかりやすい。社員を鼓舞し、手本となり、役割だけでなく人間性においても尊敬を集められる人だ。だが、それさえも簡単ではない。例を紹介したい。

 ある中小企業での話だ。そこでは、社長と役員たちとの上下関係をあまり明確にせず、トロイカ体制で組織運営をしていた。小さな会社ながら、国内数ヵ所に支部があるため、本社からの出向者が支部に何人か行っていた。専務の1人も役員でありながら、地方に出向しているような状況だ。

 ところがその出向している専務が採用に関する人事権を握っている。それは業務内容が特殊なため、エキスパートであるその専務でなければ、人材の能力の把握が難しいからというのが理由だ。したがって、人事のみならず、日常業務についても、専務が遠くからメールや電話で指示するという形で、仕事が行われていた。

 小さな会社なので、1人でも欠員が出るとつらい。そのくせ特殊業務で経験者が必要なため、人材の補充もなかなか難しかった。

 あるとき、その会社の本社で欠員がでた。フルタイムで働いていた女性が、夫の転勤に伴って辞めてしまったのだ。夫の転勤がかなり突然決まったため、彼女がその会社を辞めるのも、突然だった。

 焦ったのは上層部だ。詳しい内容は省くが、この会社は本社部長の指示で、一般社員3人それぞれが特殊技能を使って仕事をこなし、それをすべてまとめ上げて期日までに納入する、という流れになっている。したがって、1人欠けるだけでも納入には差し障りが出る。

 できるだけ早く人員補充が必要なため、新聞などに広告を打った。特殊技能が必要なため、そう簡単に人材が見つかるとは思えなかったが、そこにAさんという主婦が応募してきた。Aさんはまだ子どもが小さいため、時間の自由がきかない。だが、採用担当の専務が見た限り、仕事上のスキルについては申し分ない。

 ネックはフルタイムで働けないことだったが、自宅でもやれる仕事はするということで、非正規の嘱託職員として、採用することになった。