とはいえ、「Pathways to Housing」は、利用者全員に対して住宅と支援サービスをセットで提供しているわけではない。「住居は必要だけどサービスは不要」「ホームレスのままの状態でいいけどサービスは必要」を含め、利用のされかたは人の数だけあり、それも本人の選択によっているのである。そもそも、提供したい支援サービスを一方的に提供しているわけではない。

「アパートに入居させることは、比較的簡単かもしれません。でも重要なのは、信頼を構築して希望を育むことです。支援サービスを導くのは、利用者ご本人です。ご本人が、その人の人生のエキスパートなんです。だから、ご本人の声に耳を傾けます」(Harrisさん)

 考え方や姿勢の問題ではなく、実際に「互恵」であることも重要だ。

「毎年、事務所で感謝祭のパーティーをしています。ずっと、スタッフが料理を作っていました。ある時、利用者さんたちが『なぜスタッフだけが準備しているの? 自分たちも準備に参加させて』と言いました。それ以後は、一緒にやっています。互いに与え合うような関係にならなくては」(Harrisさん)

 そのための方法は数多い。食事をともにし、会話をともにすること。一緒にスポーツを楽しみ、一緒に博物館などに行ったりすること。ペットセラピーに、縁が切れた家族との再統合。もちろん、職業につくことの支援と、継続することの支援。その全てを、Pathways to Housing は本人の希望と必要に応じて支援している。

 意義ある取り組みではある。しかし、「施設収容より安上がり」とはいえ、気の遠くなりそうな取り組みだ。どうしても「最初から、排除される人を作らないことが最良なのでは?」と考えざるを得ない。

「なぜ、成功しやすく安上がりなのか」
フランスの調査研究からも明らかに

大きな身振り手振りとともに講演するVincent Girard氏は精神科医で、フランス・マルセイユ市を中心にハウジングファースト・モデルを実践している Photo by Y.M.

 フランス南部・マルセイユ市で「ハウジングファースト」を実践している精神科医のVincent Girard氏は、マルセイユ市とフランス全体での状況について講演した。Girard氏は移民が多い地域で育ち、移民の子どもが数多く通っている公立学校に通ったが、自身の家庭には豊かな経済力があり、充分な教育を受けることができた。

「クラスのコミュニティから弾き出されないように振る舞いながら、見えないルール・エリート主義・社会進化主義といったものからは距離を置こうと考えるようになりました。そういうものが、世の中を難しくしていると思ったんです」(Girard氏)

 約6600万人の人口を抱えるフランスでは現在、全土で約14万人が「家がない」という正真正銘のホームレス状態にあり、350万人が「適切な住宅がない」という状況にある。ホームレス状態の人々は2001年から2012年にかけて44%増加し、うち30%は精神疾患を抱えており、平均寿命は一般の人々より30年~35年程度短いそうだ。

「米国とは状況が異なります。比較的強固な福祉制度があるという意味では日本と似ていますが、米国・カナダのような公衆衛生文化は不在で、医師の権限が非常に強いです」(Girard氏)