IFRSが義務化されると、財務報告を担っている経理部門には、様々な影響が考えられる。しかもそれは、IFRSと従来の日本の会計基準の差異を明らかにし、IFRSにて財務報告ができるように会計処理プロセス等を見直すことにとどまらない。少なくとも下記で掲げるようないくつかの課題が想定される。
(1)思考方法の変更(過去から将来へ)
(2)グループ統一経理規準(ルールの統一、文化の周知)
(3)グローバル組織としての経理部門(人事評価、育成、英語、 グローバルSSC※)
(4)より高度な業務へのシフト
※SSC(シェアードサービス・センター):人事や経理、総務など企業の(主に)間接業務を一定範囲ごとに集約し、コスト低減など業務の効率化を図る経営手法。
今回は、IFRSの義務化により、膨大な影響を受ける経理部門の仕事を紹介していく。
では、経理部門がどのような課題に遭遇するのか。具体的に見ていこう。
“過去の事象”から“将来情報”へ
求められる思考方法の変更
(1)思考方法の変更(過去から将来へ)
従来の日本の会計基準でも、将来予想される事象を加味して会計処理を行うものはあった(引当金の設定や繰延税金の計算等)。その場合には、当該会計処理の対象となる事象が次期会計期間以降にどのように展開するのかを見通し、その見通しに従い会計処理を決定してきた。しかしながら、会計基準としての基本的な考え方は当期の財務成績を正しく表現することに主眼が置かれており、会計処理を検討する経理担当者は、この観点から正しい会計処理であるかという判断を行ってきた。
一方のIFRSでは、その概念フレームワークに述べられているように、財務報告の目的は、“キャピタルプロバイダー(投資家、株主、債権者等)が最も必要としている将来キャッシュフロー情報を提供すること”であり、その考え方を反映した会計判断を求められる。つまり、自社が開示しようとしている財務報告情報やその基礎となる個々の会計処理は、あくまでも「将来キャッシュフロー情報提供の観点から妥当であるか?」という判断基準を持つ必要がある。この考え方の変換は非常に大きな意味を持っている。
伝統的に財務報告は、“過去の事象”を対象にしたものと考えられてきた。それゆえ、将来情報を加味する場合もあくまでも補助的な活用にとどまっていた。しかしながら、IFRSの世界では“将来の事象”を如何に適切に表現するかが問われてくる。これまで補助的な位置づけであった将来情報がある意味主役に躍り出ることになる。
IFRSでは、原則主義であることから、概念フレームワークを十分理解して各基準を解釈することが求められる。それゆえ、経理担当者はIFRSが求める、将来キャッシュフローの見通しに資する情報としての財務報告、という観点から会計処理を判断できるように、大きく思考方法を変える必要がある。