「銀行は本当に中小企業と向き合って融資判断をしているのか」。いくら銀行に問いただしても晴れない疑念の答えを見つけるため、金融庁は銀行の融資先に対するヒアリングを開始した。本誌はその質問項目が記されたヒアリングシートを入手。そこからにじみ出る、金融庁の地銀に対する問題意識に迫る。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)
「なお、本シート、お伺いしたい事項の内容及び当日お伺いする内容を取引金融機関に伝えることは絶対にございませんので、ぜひとも忌憚のないご意見をお聞かせ頂きますようお願いします」
そんな、やや仰々しい一文がしたためられた一枚紙と共に、ある質問票が全国各地の限られた企業に配られている。その送り主は金融庁。地方銀行など金融機関の融資先企業に配布したのだ。
背景には、地銀に対する金融庁の拭い去れない疑念がある。金融庁は定期的に地銀の検査に入っているが、「銀行がいくら目利き力で貸すと言っても、中小企業や政治家からは、結局担保や保証がなければ貸せないという話ばかりで、昔と何も変わらないという不満も強い」(金融庁幹部)。このギャップがどうにも埋まらないのだ。
それはある意味当然の話で、上司から仕事について問われた部下よろしく、監督官庁の金融庁から銀行業務について問われれば、できていなくとも取り繕ってしまうのが銀行のさがというもの。
であれば、地銀の仕事ぶりについて融資先に直接話を聞いてしまおうということで誕生したのが、冒頭の質問票だったわけだ。
金融庁が中小企業にヒアリングする。これを聞いた地銀界は「何を聞くつもりか」「どの企業に行くんだ」と蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。そして、先回りをして融資先企業に接触しようと考える地銀も現れた。
だが、金融庁は抜け駆けを許さない。「ヒアリング対象企業を調べる、対象企業に接触を図るといった、企業の回答に影響を及ぼすような行動は避けてほしい」。地銀頭取との会合の場で、局長級幹部が直々にくぎを刺したのだ。
また、金融庁上層部は部下に対して、「対象企業の選定について、絶対に銀行から意見を聞くな」というお達しも出した。それはもちろん、銀行の息が掛かった融資先に話を聞いても、銀行に都合のいい話しか出てこないからだ。
対象企業は「1年に1000社が限界」(金融庁関係者)という人員面の事情もあり、厳選。全国各地の地元中核企業全てを視野に入れた上で、「各地域の中小企業の母集団を正しく反映するようなサンプリングを心掛けた」(同)という。また、ヒアリング担当者にも、話の流れの中で銀行への本音をうまく引き出せるよう指導するなど、相当な力の入れようだった。
そして、今年9月、ついにこの地銀に対する抜き打ち検査のヒアリングが始まったのだ。