しかし、管弦楽と声楽を統合し調和ある音楽を創ることには音楽面・技術面から多くの課題がありました。いずれ第九に繋がっていくスケッチや断片が残っています。

 よく知られているとおり、ベートーヴェンは耳の病に冒され聴力を失います。聴力を失う一方、作曲家として大成していく中で、ベートーヴェンからシラーの詩を音楽にするという衝動が消えることはありませんでした。

 本格的に第九の作曲に取りかかったのは、1815年、45歳の頃といわれています。同時並行的に交響曲第八番や弦楽四重奏曲も作曲されていて、新たなアイデアが生まれ試みています。いわゆる“歓喜の歌”の旋律が誕生するのは1822年、52歳の頃です。

 そして1824年2月中旬には交響曲第九番が完成します。

ベートーヴェンの頭の中にあった第九は再現されたのか?

 紆余曲折を経て、ウィーンのケルントナートーア劇場で5月7日の金曜日の夜7時からの公演で初めて第九が演奏されました。

 ところで、ベートーヴェンの頭の中に響いていた音楽はオーケストラによって的確に再現されていたのでしょうか? 今となっては、永遠の謎です。ベートーヴェンは結局それを聴いて確認することはできなかったのですから。

 初演時の指揮者はイグナーツ・ウムラウフという人物です。作曲者のベートーヴェンは総指揮者という立場で舞台の袖に立ちました。聴力を無くし指揮が無理だったベートーヴェンに対する敬意の表れでもあります。実は、決して裕福ではなかったベートーヴェンは黒の礼服を持っておらず緑のジャケットを着用していたと伝わっています。

 そして、演奏が始まります。