「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

アメリカの小学校には「掛け算ができない子」がいてもいい…それでも日本が真似してはいけない理由Photo: Adobe Stock

なぜアメリカでは「暗記」が少ないのか

――アメリカと日本の両方で教育を受けてきたそうですね。日米の教育の違いを感じたことはありますか?

 かなりあります。まず、アメリカでは日本ほど暗記が重視されません。小学校高学年でも、掛け算が十分にできない生徒は珍しくありません。

 日本人の感覚からすると驚くかもしれませんが、それでも授業は普通に成り立っています。

――どのような授業だったのでしょうか。

 例えば、社会の授業です。先生からは「このテーマについて調べて発表してください」と言われるだけで、細かい指示はほとんどありません。

 生徒はそれぞれ自分で調べ、プレゼンの形にまとめて発表します。フリップを作る生徒もいれば、レポートに整理してくる生徒もいます。実際に現地に行った経験を話す生徒もいました。

 テーマ自体は同じでも、切り口や問題意識は生徒ごとにまったく違っていました。明確なディレクションがないため、最初はかなり戸惑いました。

 ただし、評価されるのは単に調べた量ではありません。みんなが調べていない角度で調べているか。自分の視点を持っているか。こうした点が重視されていました。

 逆に、百科事典や論文を書き写しただけのような発表は、注意されていました。

――独自の視点で考えたり、発信したりする力が重視されているのですね。

 そうですね。詩を書いたり、物語を作ったり、プレゼンをしたりする機会も多くありました。

 また、先生は「正解か不正解か」よりも、必ず「なぜそう思ったのか?」を聞いてきます。さらに特徴的なのは、他の生徒の意見にコメントすることも求められる点です。

 多民族国家なので、さまざまな背景を持つ生徒の考え方に触れる機会があります。そうした環境は、構想力を鍛えるうえで非常に有効だと感じました。

日本の教育は本当に弱いのか

――一方で、日本の教育は暗記中心だとも言われます。

 確かにそうした側面はあります。社会の授業では、穴埋め問題を解いたり、語呂合わせで年号を覚えたりすることが多かったと思います。創意工夫よりも、決められた答えを正確に書くことが求められていました。

 ただ、日本の教育にも明確な強みがあります。

 中学生の頃、塾で仲良くなった友人たちと議論することがよくありました。歴史でも政治でも、話が非常に盛り上がるのです。理由はシンプルです。全員が同じことを学んでいるからです。共通の知識があるので、議論の前提が共有されています。その土台の上で意見を戦わせることができる。ハイレベルな議論が成立するのは、基礎知識が広く共有されているからです。

AI時代に必要なのは「知識」と「構想力」

――こうした強みも踏まえ、AI時代の教育はどのように変わるべきだと思いますか?

 まず、日本の教育の強みである基礎学力は残すべきだと思います。むしろAI時代には、これまで以上に重要になるはずです。AIに質問するためにも、問いを立てる力が必要です。

 そして問いを立てるには、幅広い知識が前提になります。何も知らなければ、そもそも何を聞けばいいのかすら分からないからです。

 AI時代に重要になるのは、一般教養、一般常識、そして言語化能力です。

 一般教養という意味では、幅広い知識を持っていること自体が強みになります。ただし、それだけでは十分ではありません。知識だけでは、現実の状況を判断する力にはつながらないからです。

 そこで重要になるのが一般常識です。一般常識は実体験を通してしか身につきません。現場を見る、人と議論する、試してみる。そうした経験を通じて初めて、知識が「使える理解」に変わっていきます。

 その一つの方法として有効なのが、「もし○○だったらどうするか」という思考訓練です。

 例えば、自分がトランプ大統領だったらどう判断するか。習近平だったらどう動くか。こうした訓練は、構想力を鍛えるうえで非常に有効です。

――この話はビジネスパーソンにも当てはまりそうですね。

 その通りです。AI時代には、幅広い知識を持つことがますます重要になります。

 例えば、会計や法律といった分野も、深く理解している必要はありません。浅くてもいいので網羅的に知っておくことが重要です。知識があると、問いの質が変わるからです。

 そのうえで、実践を数多く経験することです。実際にやってみて、失敗して、そこから学ぶ。知識と実践この両方を回していくことが、AI時代の学び方なのだと思います。

 なお、拙著『戦略のデザイン』のレッスン10では、こうした「失敗から学ぶための仕組みづくり」について、具体的な事例や実践方法とともに紹介しています。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。