ダ・ヴィンチから我々が学ぶべきことは、
ヒット曲は一発あればいい
山田 もっとも、名画だからといって必ずしも有名になるとは限らない。『モナ・リザ』がここまで有名になったのは、ダ・ヴィンチが残した作品が極端に少ないってこともプラスに作用したんじゃないかと思うんですよ。
こやま ありがたみがあったんですね。
山田 そういうこと。あと、ダ・ヴィンチの場合、完成作は少ないけど構想のメモや素描は大量に残してるってとこもポイントですね。岩波文庫で『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』という題で出てますけど。これが結構、効いている。
こやま 絵だけじゃないんですよね。ヘリコプターとか。いろんなスケッチも残されているっていう。
山田 あれ、飛ばないからね。
万能の天才とか呼ばれてるけど、レオナルドの発明ってほとんど実現不可能なアイデア倒れのものばかりなんだよね。それでも、ちゃんと記録を残しておけば、後の時代の人たちがいいように解釈してくれる。人間、何か思いついたら文章や絵にして残しておくべきだという教えだね。
こやま 中途半端なメモ書きでも、とりあえず残しておく。
山田 もうひとつ、ダ・ヴィンチから我々が学ぶべきことは、ヒット曲は一発あればいいってことですね。
こやま それが『モナ・リザ』ですね。
山田 そう。ああいう圧倒的なヒット作が一発はないとダメ。でも、逆に一発当てさえすれば、それ以上はむやみに作品を発表しすぎないほうがいい。一発一発の印象が薄くなるし、大ハズシしてそれまでの成果を台無しにしちゃう危険性も高まるから。うっかりアイデアが出ちゃった場合は、完成作ではなくメモで残しといたほうが無難かも。
こやま あははは。
山田 メモならいくらでも話が盛れるし、後で誰かがそのアイデアを実現してくれた暁には「俺が先取りしてた」って言えるから。
こやま 何百年も前に構想してた!って。
山田 話を戻すと、構想やスケッチは山ほどあるのに完成作が数えるほどしかないのは、完璧主義なくせに飽きっぽい性格だったからだと思います。完璧さを求めて制作に時間をかけすぎるせいで、その間に他のことに興味がわいて飽きてしまう。『モナ・リザ』ですら、実は未完とも言われています。それでもあれだけの完成度にたどりつけたのは、たまたま売れず手元に残ったのと、持ち運べる大きさだったおかげで、気が向いたときに加筆し続けることができたからでしょう。
こやま そうか。モナ・リザは売れなかったから名画になれたわけですね。