軽減税率をめぐる首相官邸・自民党・公明党の三角攻防は、財務省の完敗で終わった。
「消費税8%据え置き」の対象は加工食品にまで広がり、歳入に1兆円の穴が開く。財務省が考えた低所得者向けの還付案は、創価学会の横ヤリで潰れたという。だが創価学会に同調し、流れを変えたのは官邸だった。
表向きは自民税調vs公明党・創価学会に見える攻防は、一皮むけば官邸vs財務省という権力中枢のひび割れに根源がある。首相は自民党税調を仕切る財務省OBの野田毅会長を外し、財務省がすがる谷垣禎一幹事長を降伏させることに成功した。「安倍一強体制」は一段と強化されたが、その陰で政権基盤である財政の再建シナリオが怪しくなっている。
選挙を視野に軽減税率の
次は消費増税先送りか
「税は国家なり」といわれるように、税制は政治の塊。首相は来年夏の参議院選挙に公明党・創価学会の応援が必要と考え「軽減税率」を受け入れた。というのが一般の解説だが、筆者はそれだけではない、と思っている。安倍政権は消費税10%増税を2017年4月から実施することを避けたいと思っているのではないか。
永田町で自民党政治家の話を聞くと「選挙やるなら消費税は延期でしょう」とか「まず景気回復。アベノミクスがうまくいっていないのに消費税増税などできませんよ」という声を聞く。選挙モードに入った政界で、「消費増税先送り」への画策が与党陣営に始まっているのが現状だ。その文脈で考えると、「軽減税率が及ぼす効果」は全く違ったものに見える。
それはさておき、なぜ軽減税率がこんなに沸騰したのか。
淵源をたどれば、民主党政権時代の「3党合意」に行き着く。2012年6月15日、民主・自民・公明の3党は消費増税関連法案について合意、導入に当たっては低所得者向けの軽減税率を検討することが盛られた。公明党が強く求めたからだ。
だが「低所得者対策なら軽減税率は効果的ではない」という指摘は学者から上がっていた。生活必需品の税率を安くすれば、消費税への「痛税感」を和らげることはできる。それは「低所得者」だけではない。買い物をたくさんするのは金持ちだ。消費税を安くして取りはぐれる税金のうち、低所得者が受ける恩恵は微々たるものでしかない。軽減税率は金持ちほど恩恵を受ける。