しばしば、「公的年金は国庫負担が与えられるので、私的年金より有利だ」と言われる。この説明ははたして正しいだろうか?
これを見るために、純粋な賦課方式をとった場合に年金がいくらになるのかを、つぎのように考えてみることにする。
簡単化のため、22歳から65歳までの43年間、保険料(保険料は標準報酬の18.3%とする)を支払い、65歳から平均余命である18.5年間年金を受け取るとする。配偶者が本人の半額の遺族年金を5年間(65歳における平均余命の男女差)受け取るとすると、本人が21年間受給するのと同じことになる(ここでは、20歳から21歳までの国民年金加入は無視する)。
まず、経済成長率がゼロであり、各年齢層の人口が同一でnである場合を考えよう。1人当たり標準報酬をyとすれば、年間の保険料総額は0.183×43yn=7.87ynであり、これを全体で21nの受給者で分けることになるので、1人当たりの受給額は0.375yとなる。つまり、年金の所得代替率は37.5%である。
以上では国庫負担を考えなかったが、現実には、給付総額の約37%に当たる基礎年金に対して、2分の1の国庫負担金が与えられている。
この場合、1人当たりの年金額をwとすれば、国庫負担総額は0.185×21wn=3.885wnである。したがって、保険料収入と国庫負担の和は7.87yn+3.885wnであり、これが給付総額21wnに等しくなる必要がある。これを解けば、w=0.4598y。つまり、所得代替率は46%になる。
財政検証においては、最終的な所得代替率をほぼ50%のレベルにすることを目的としている。以上で行なった計算からすれば、これは静態人口における純粋な賦課方式(積立金がゼロである財政方式)では実現できない高い水準であり、人口が増加する社会においてのみ可能なものであることがわかる。
所得代替率50%の年金のためには、
0.5%程度の人口増加率が必要
以上では、静態的な人口構造を考えた。人口が増加する社会では、これより高い所得代替率を実現することができる。
加入者(保険料支払い者)総数をA、受給者総数をBとすると、保険料収入と国庫負担の和は、0.183yA+0.185wBであり、これが給付総額wBに等しくなる必要がある。