日本では実行できるのか?
厳しい財源の問題

 となると、日本でもベーシックインカムを導入すべきという意見が出ておかしくありませんし、実際に経済学者の中でもそうした主張を始めている人もいます。

 確かに行革の観点からは大きなメリットがありそうです。日本の社会保障は、年金、医療、介護、生活保護、保育と縦割りになっており、それぞれの分野に大きな既得権益が存在する他、政府や自治体には膨大な数の職員がいるので、社会保障をベーシックインカムに一元化できれば、かなりの行革となることは間違いありません。

 しかし、財源の面からはかなり厳しいと言わざるをえません。例えば、年金生活世帯(夫婦2人)の平均消費支出は約24万円/月なので、毎月12万円を全国民にベーシックインカムとして支給すると仮定したら、なんと年間で173兆円の財源が必要となります。社会保障給付費(年金、医療、介護・福祉などの合計)が117兆円であることを考えると、とても賄えません。

 ちなみに、フィンランドでも、毎月800ユーロを全国民に給付したら年間520億ユーロが必要となり、今年のフィンランド政府の歳入490億ユーロよりも多くなってしまうので無理だ、と批判されています。

 そこでフィンランドでは、全国民ではなく大人にのみベーシックインカムを給付するという構想もあるようですが、その場合には、例えば夫婦2人の世帯ならば問題ないけど、3人の子を持つシングルマザーの世帯は悲惨なことになるので、こうしたアプローチは現実的ではないでしょう。

 即ち、財源の問題からベーシックインカムの導入は難しいという結論にならざるを得ません。

働く意欲が落ちる、は本当?
労働インセンティブの問題

 ただ、ベーシックインカムについて考える場合、財源よりも憂慮すべき問題があります。それは労働インセンティブへの影響です。ベーシックインカムで最低限の生活に必要な収入が保証されたら、働く意欲が落ちるのではと考えるのが自然だからです。

 しかし、2014~15年のドイツ・ベルリンでの実験、更には1970年代にカナダのある町で行なわれた実験からは、ベーシックインカムの支給は労働インセンティブを落とさないという結果が報告されています。ドイツで実験プロジェクトを行なっている主催者は、将来的にデジタル化が多くの仕事を人間から奪う可能性が大きい中で、将来不安に苛まれることなく安心して生活でき、学校に通って新たなスキルを身につけることもできるなど、メリットが大きいと主張しています。

 だからこそ、フィンランドでも、ベーシックインカム導入賛成論者は、ベーシックインカムは労働インセンティブに影響を及ぼさないと主張しているのですが、それが日本にも当てはまるかとなると、ちょっと微妙ではないでしょうか。