過去に、日本IBMがLGBTの問題を含むダイバーシティに注力してきたのは、背景にそのような事情があるのです。ビジネスで、自ら変わらなければ生き残れないというのっぴきならない危機感があり、さらに企業としての独自色を打ち出していく必要もあったということが、大きな理由としてあります。

 かつて日本IBMは、外資系企業と言いながらも「外国人は最上層の偉い人だけ。しかも秘書付き」(笑)で、中堅や若手には外国人がほとんどいませんでした。ところが今では、箱崎のオフィスには常時100人以上の外国人が働いています。採用された国はバラバラですが、必要に応じて適材適所で日本にも配属されてきます。社内には、当たり前のように中国人もインド人もいるのですから、組織全体がダイバーシティでなければビジネスが回りません。

LGBTだと明かして
入社する社員が現れた

――米国のIBMには、「自分はLGBT当事者である」とカミングアウトしている経営幹部(役員クラス)が約50人いるそうですが、日本はどうですか。

日本IBMでは、2012年から同性同士の事実婚にも3万円の「結婚祝い金」を出している。下野副社長(13年当時)は、その制度を使って結婚した男性カップルの結婚式に招かれ、主賓としてスピーチを行った。実は、この晴れ舞台のために体重10キロ減のダイエットに挑戦したが、そちらも公約通りに成功した 写真提供:日本IBM

 日本のIBMでは、役員はまだいません。私は、いてもおかしくないと思っていますが、日本で同性愛者であることをカミングアウトした上級職はソフトウェア事業部の川田篤部長だけです。彼は、社内のコミュニティのリーダーでもあります。人事部が把握している当事者は約20人です。残念ながら、過去には「関連施策の拡充が遅い」と、退職してしまった当事者の方もいます。

 全世界のIBMには約40万人の社員がおり、日本はグループ会社を含めると約2万人になります。15年4月に実施された電通ダイバーシティ・ラボのLGBT調査では、人口の約7.6%が該当するという推計が出ました。私の感覚では「ちょっと多いかな」と思わないでもでないのですが、それでも日本IBMの社内にはもっと多くのLGBT当事者がいるはずです。いないと、おかしい。

 過去10年以上、LGBTの問題に関わってきました。15年には、嬉しい出来事がありました。最初から、LGBT当事者であることをカミングアウトして入社する若者が現れてきたことで、「日本IBMはLGBTに関して偏見のない会社だと聞いたから就職先に選んだ」と言うのです。今では、日本の大学でも、キャンパス内でLGBT関連サークルの活動などに接する機会がありますから、古い世代、62歳の最年長役員だった私にとっては隔世の感があります(笑)。

 先日、会社近くのイタリアン・レストランで社内のLGBT当事者が集まる飲み会がありました。私も一緒に楽しい時間を過ごして、その場で皆の写真を撮りました。そこで私は、「SNSのフェイスブックにアップしたいのだけど、いいかな?」と確認すると、全部で十数人いた参加者のうち「顔を出さないでください」と言うのは2人だけで、他は全員が「OK」だったのです。

 時代は、確実に変わっています。16年1月1日からは、最高顧問になるので少し時間ができます。今後は、裏方としてのサポート役に回りたいと思います。