現代の心理学は性格(パーソナリティ)を大きく5つの要素に分けている。これがビッグファイブ理論で、「外向的/内向的」「楽観的/悲観的(神経症傾向)」「協調性」「堅実性」「経験への開放性」をいう。拙著『スピリチュアルズ』(幻冬舎文庫)では協調性を「同調性」と「共感力」に分け、「知能」と「外見」を加えた「ビッグエイト」を提案した。

 パーソナリティすなわちキャラとは、自分の内面にあるものではなく、他者があなたをどう評価するかで決まる。初対面のひとと会ったとき、あなたが気にするのは次の8つだろう。

(1) 明るいか、暗いか(外向的/内向的)
(2) 精神的に安定しているか、神経質か(楽観的/悲観的)
(3) みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か(同調性)
(4) 相手に共感できるか、冷淡か(共感力)
(5) 信頼できるか、あてにならないか(堅実性)
(6) 面白いか、つまらないか(経験への開放性)
(7) 賢いか、そうでないか(知能)
(8) 魅力的か、そうでないか(外見)

 どうだろう。これ以外に興味をもつことがあるだろうか。

これまで低く評価されていたパーソナリティが再評価されるようになった

 パーソナリティ心理学のビッグファイブ理論はきわめて強力なので、これを使うとFacebookの「いいね!」だけで相手のことがわかってしまう。それも70の「いいね!」で友人のレベルを超え、150の「いいね!」で両親の、250の「いいね!」で配偶者のレベルに達する。これはビッグデータによって、SNSの投稿や「いいね!」とパーソナリティの相関を解析できるようになったからだ。

 最近は若者のあいだでMBTIという性格診断が流行している。だがこれは、マイヤーズとブリッグスが開発した本来の「Myers-Briggs Type Indicator(MBTI)」とはまったくの別物で、ビッグファイブのパーソナリティ診断に「MBTI」の名前を冠したものだとされる(小塩真司『性格診断ブームを問う 心理学からの警鐘』岩波ブックレット)。

 前置きはこのくらいにして本題に入ると、パーソナリティには明らかに社会的・文化的な優劣がある。現代社会に求められるのは「明るく、楽観的で、同調性と共感力が高く、信頼でき、面白い」キャラクターで、これに高い知能と魅力的な外見が備わればセレブリティへの道が開ける。とはいえ、パーソナリティにはばらつきがあり、それは正規分布する(ベルカーブのかたちになる)とされるので、統計的にはこれと反対のキャラの持ち主が半分いる。こうした「望まれないキャラ」が、生きづらさの大きな原因になっている。

 だがその後、これまで低く評価されていたパーソナリティが再評価されるようになった。代表的なのは「内向性」で、内気な子どもは親や教師から「もっと元気に(外向的に)なりなさい」と叱られてきたが、知識社会では内向的な性格のほうが専門職に向いており、(政治家や芸能人にはなれないかもしれないが)経済的に成功し、幸福な人生を送ることができるというデータが積み上がっている(スーザン・ケイン『内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える』古草秀子訳/講談社+アルファ文庫)。それに対して外向的な性格は、大きな成功をつかむこともあるが、交通事故やドラッグ・アルコールで若くして死亡するリスクが大きく、離婚率も高い。

「明るく、楽観的で、同調性と共感力が高く、信頼でき、面白い」キャラクターが成功しやすいされてきたが、「高い自尊心」はむしろネガティブとの評価もイラスト/jongcreative / PIXTA(ピクスタ)

 それ以外にも、SNS社会では共感力が高すぎることがうつ病の原因になったり、堅実性が高すぎると強迫神経症になるなど、「望まれるキャラ」にもさまざまな弊害があることがわかってきた。

 だがそのなかでも、悲観的なパーソナリティにはほとんどいいことがない。神経症傾向が高いのはうつ病の主要なリスク要因だし、心配性で相手のなにげない言動を気にしてばかりいると友人は離れていくし、恋愛だってうまくいかないだろう。進化心理学では、悲観的なパーソナリティはいまよりずっと危険だった旧石器時代の狩猟採集社会では役に立ったが、人類史上もっとも平和で安全な社会で暮らすわたしたちにとっては、重荷にしかならないとされる。

 そんなネガティブな評価に異論を唱えたのが、社会心理学者トマス・チャモロ=プリミュージクの『「自信がない」という価値』(桜田直美訳/河出書房新社)だ。そればかりかチャモロ=プリミュージクは、「自信がないほど成功できるし、健康で長生きできる」と、これまでの常識を覆す主張をしている。