この実力主義の企業社会で
なぜ「学歴病」はなくならないのか?
日本の企業社会に「学歴病」がいまだ根強く存在する背景には、いったい何があるのか。今回は、筆者が過去の一時期に接した「学歴病」にかかった中高年社員の姿と、日本的経営の特徴を交えながら、その正体をさらに深く考察したい。
はじめに、人事コンサルタントとして30年ほどのキャリアを持つ林明文氏(コンサルティング会社・トランスラクチャ代表取締役)は、これから本稿で筆者が取り上げる「学歴病の中高年社員」について語ったところ、こんな感想をくれた。
「まじめに人事を考える身からすると、やり切れない話です。皮肉るわけではありませんが、今の日本では、このような人たちは恵まれた会社員です。中小・ベンチャー企業に、こんな中高年を雇う経営的な余裕はありません。
東京五輪の2020年までは、日本の経済はなんとかなるのかもしれません。それ以降は、想像できないほどに厳しい時代になります。本来は、このような社員への対応を含め、人事の改革は急いで進めるべきなのですが、それが十分にはできていないのです」
人事コンサルタントにここまで手厳しく評価される「学歴病の中高年社員」とは、どんな人々なのか。彼らは皆、ある大手企業に勤めていた。その会社の名前は、ここでは「N社」としておこう。2000~2006年前後、N社は注目を浴びる存在だった。
かねてから、様々な内紛を抱えていた。労働組合は、連合・全労連・全労協などに加盟する労組がいくつもある。それらの中での争いも絶えない。役員や管理職による使途不明金や、部下へのいじめ、パワハラ、セクハラなどの不祥事も取り沙汰されていた。2000~2006年にかけてその世論が爆発した大きな理由の1つが、トップ(会長)の記者会見などにおける挑戦的な言動だった。メディアは一斉に会長への批判を繰り返した。厳しい世論の中、会長は退陣に追い込まれた。
筆者は、N社の内紛を記事にしようとした。通常、企業の取材は、広報部(課)に交渉する。しかし、内紛を記事にする場合は、広報は取材を受けない。筆者がN社の広報に連絡をしても、断わりを受けた。
そこで、N社の社員が出入りするスナックに通うようにした。「この店に、N社に勤務する中高年の社員が連日押しかけ、盛んに学歴の話をしている」と、N社に出入りする大手タクシーの運転手たちから聞いたためである(ちなみに、このスナックのエピソードは、これまで筆者の複数の連載で紹介したことがある)。
店は、とある雑居ビルの5階にあった。薄暗い部屋の奥にあるソファからは、N社のそびえ立つ本社ビルが見えた。店には、数年間で20回近く通った。午後8時~11時までは、1日平均15人前後の客がいる。平均年齢は、40代前半から後半。多くは、男性である。確かに、そのほとんどがN社の中高年で「傷」を持った人たちだった。