ある4~5歳の女の子との対話
(Kayoko Kubota)
1932年、大阪生まれ。
脳科学の権威である京都大学名誉教授・久保田競氏の妻で2人の息子の母。約30年前に、日本における伝統的な母子相伝の育児法を見直しながら、自身がアメリカ在住時と日本で実践してきた出産・育児経験をもとに、夫・競氏の脳科学理論に裏づけされた、“0歳から働きかける“久保田式育児法〈クボタメソッド〉を確立。この20年で3000人以上の赤ちゃんの脳を活性化させてきた。テレビなどで「脳科学おばあちゃん」として有名。2008年、株式会社『脳研工房』を立ち上げ、現在代表取締役。著書に、累計34万部突破のシリーズ『カヨ子ばあちゃん73の言葉』『カヨ子ばあちゃんの男の子の育て方』『カヨ子ばあちゃんのうちの子さえ賢ければいいんです。』『赤ちゃん教育──頭のいい子は歩くまでに決まる』『カヨ子ばあちゃんの子育て日めくり』(以上、ダイヤモンド社)などベストセラー多数。ズバッとした物言いのなかに、温かく頼りがいのあるアドバイスが好評。全国からの講演依頼もあとをたたない。
【株式会社脳研工房HP】 http://www.umanma.
co.jp/
幼児のよく遊ぶ場所でスケッチをしていたら、4~5歳の女の子が、
「私の顔を描いてちょうだい」
と言って寄ってきました。
私はその子の顔の特徴をよく似せて、うまい出来栄えに描けたのですが、全然喜びません。
それどころか、不思議な顔つきで、
「ママのほうがうまい」
と言ったのです。
いつもどんな顔を描いてもらっているのかと思い、次にマンガ的に目はパッチリ、髪にリボンをつけ、その女の子と似ても似つかぬ顔を描くと、それには満足してうれしそうに応じました。
もうひとり、同年齢の女の子の顔を写実的に描きました。
すると、とても喜び、彩色してくれるよう頼まれたので、「髪の色は?」と聞くと、「ピンク」と答えました。
大人では考えつかないピンク色の髪は新鮮で、その子のかわいらしさを強調してくれて、思いがけぬ効果が出ました。
既成観念にとらわれて、女の子のまつげを目の上下に描き、小さな口元に長い髪、リボン──という型どおりの絵でも自分を描いてくれたと思い込む最初の女の子は、お母さんの心なく描く絵に、夢や想像力を抑えつけられています。
ピンクの髪の色を選んだ女の子は、なにもピンクが内容を表すのにピッタリだと思ったのではありません。
ピンクが好きだっただけなのです。
その子が大きくなったとき、その絵を贈りましたが、ピンクの髪はそのころのかわいらしさを彷彿(ほうふつ)とさせるものがありました。
お母さんが絵を描くとき、上手に描けるほうがいいのですが、下手でもかまいません。車なら車の特徴を正確に描く。見えないものまで描く必要はありません。
私はよく、
「おまえの鼻は少し丸くて、穴がよく見えるな」
「右の目のほうが少し大きいかな」
とか言いながら描いてやりました。