地球温暖化の時代と言われて久しい今日この頃です。が、やはり冬は寒く、凍てつく朝は辛いものです。とはいえ、冬の寒さがあればこそ、春に芽吹く花々は美しく咲き誇るのです。
さて、ジャズの話です。19世紀から20世紀へと変わる頃、米国南部ニューオリンズでジャズは誕生しました。その担い手はかつて奴隷だった黒人たち。土着の響き、陽光が育んだリズム、西洋古典音楽が混じり合って生まれたハイブリッドな音楽です。南部の暖かい気候があればこそです。しかし、20世紀を通じて大いに発展したジャズを振り返る時、極寒の季節にジャズの歴史を創る名盤が生まれています。凍てつく冬の寒さが夏の開放的なエネルギーに満ちる音楽を鍛えに鍛えて、強靭な音楽を創り出しているのです。
という訳で、1月に録音されたジャズの名盤3枚を厳選します。
音楽の殿堂カーネギー・ホールにジャズがやって来た
ニューヨーク7番街57丁目のカーネギーホールは1891年に建設されました。こけら落としにはチャイコフスキーが特別賓客として来訪し「戴冠式祝典行進曲ニ長調」を指揮しました。ドボルザークの交響曲「新世界」もここが世界初演でした。カーネギーホールと言えば、ほぼ半世紀にわたってクラシック音楽の殿堂でした。
ところが、1938年1月16日(日)夜、異変が起きます。史上初めて、カーネギーホールにおいてジャズの公演が行われたのです。その主役がベニー・グッドマン楽団です。
稀代のクラリネット奏者にして作曲家、バンドリーダーであるグッドマンは、貧しいロシア系ユダヤ人の家庭に誕生します。幼少の頃から楽才を示し、11歳でプロの演奏家としてデビューします。
長じて、ニューヨークに進出し、やがてグッドマン楽団を結成。彼の音楽の核心は、軽快にスウィングするリズムに乗って舞い上がる親しみやすい旋律です。堅固な基礎の上で繰り広げられるアンサンブルは極上の娯楽音楽です。そして、旋律が解体され簡潔な即興演奏が聴衆の興奮を誘います。そんな彼の音楽はラジオを通じて全米に広がり、支持を獲得していきます。当時の最先端の音楽だったのです。人々は敬意を込めてグッドマンを『キング・オブ・スウィング』と呼びました。