世の中には、「常識」があります。

 冠婚葬祭は言うに及ばず、日常的な社会生活のほぼ全てに常識はあります。誰がつくったという訳ではありませんが、人の集まるところには、明示的あるいは黙示的なルールが存在しています。そんな常識や暗黙のルール、世の相場観を破ってみたいと誰もが思うでしょう。しかし、実際の生活の中ではリスクと無縁ではありません。

 それでも、趣味の世界ならば、もっと大胆になれるでしょう。例えば、音楽とか。

 ひょっとして、今これを読んでいるあなた、“ジャズ”と聞いただけで敬遠していませんか?暗くてジメジメして、どこに旋律があるのか分からないし、やたら長く、芸術性だ音楽性だと薀蓄が多過ぎる。要するに、「ジャズは小難しい」と思っているでしょう。

 実際、それらの指摘は全くの的外れではありません。ジャズは小難しくもあり、夜が似合う音楽なので、暗いかもしれません。即興ともなれば、美しい旋律も完全に解体され、延々と訳のわからないアドリブが続きます。

 でも、そんなジャズの「常識」を覆す、陽光に似合う爽快な音盤も沢山あるのです。

 食わず(聴かず)嫌いを克服するべく、梅雨を乗り切り初夏に聴きたい、心地良きジャズ名盤4枚を厳選します。

ジョン・コルトレーンの相棒が奏でる
シンフォニックサウンド

◆マッコイ・タイナー「フライ・ウィズ・ザ・ウインド」

 夏山は多数の都会人を山へと誘います。大自然は人間の本能をくすぐるのでしょう。その究極はエベレスト。この音盤のジャケットは、8000メートルを超える頂上が、雲の切れ間に見える写真です。これは、ジャズピアニストのタイナーが築き上げた音楽を見事に語っています。

 聴けば、表題通り音の塊が風に乗って飛翔する実に大きな音楽です。そこに在る音楽は、もはやジャズだクラシックだとジャンルを云々する意味を超えています。