米グーグルはすでに、「検索サービスを主体とする広告会社」の枠を超えて新しいメディア企業となりつつある。世界中で、既存の価値観と衝突しながら“効率化”を推進し、無料のサービスで消費者の支持を得てきた。だが、そんな彼らも岐路に立たされており、新たな“脅威”に直面している――。同社の3人の共同経営者を含む150回以上の聞き取り調査を通して、社会の変化を描いた内幕本『グーグル秘録』(文藝春秋)の著者に、じっくり話を聞いた。「週刊ダイヤモンド」(2010年6月5日号)掲載のインタビューを、改めてロングバージョンでお届けする。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
(Ken Auletta)
調査報道ジャーナリスト、 『グーグル秘録』著者
1942年生まれ。老舗雑誌「ニューヨーカー」の記者。米ニューヨークを拠点に、30年以上、政治、経済、メディアなどの分野をカバーしてきた。米国を代表する調査報道ジャーナリストの1人。『ウォール街の欲望と栄光』や『巨大メディアの攻防』など、計11冊の著書がある。長年、ピュリッツァー賞の審査員を務めるなど、後進の指導にも当たる。『グーグル秘録』は、15ヵ国でベストセラーになった。
Photo by Toshiaki Usami
─最近、グーグルは、世界中で“衝突”を繰り返している。たとえば、今年の3月に中国本土で展開していた「グーグル中国」の検索サービスをいったん停止し、「グーグル香港」経由での提供に切り替えた。日本では、この一件を「中国撤退」と報道するメディアが多かったが、あなたはどう見るか?
私は、中国の一件はグーグルが“撤退した”のではなく、“撤退をチラつかせた”に過ぎないと見ている。確かに、検索サービスは、香港経由に切り替えたが、中国の拠点にはR&D部門のオフィスが残るし、営業活動も続けている。
2006年以降、グーグルは、部分的に中国政府の検閲を受け入れることで、中国本土に進出した。
だが今回は、Gメールがハッキングされていた“事実”が発覚したことを受けて、現状のままでは①中国のユーザーを守れない、②グーグルの自由な活動が保証されないなどの理由(大義名分)を挙げて一時的に香港へ“迂回”する措置を取ったと見るべきだろう。
─続く5月には、ドイツで、日本でもプライバシー騒動を巻き起こした「ストリートビュー」の撮影車が、本来は集めてはいけない種類の個人情報まで収集していたことで、ドイツの情報保護当局と衝突した。
ドイツの一件では、グーグルの撮影車がドイツ国内を走りながら、パスワードで保護されていないWi-Fiネットワークの通信トラフィックを収集してしまっていた。
以前から、欧州(EU)では、プライバシーに関して、グーグルに対する懸念が高まっていた。だから、「ドイツで起きた」というよりも、「ドイツが発端になった」と考えたほうがよいだろう。
グーグルは、自らの非を認めて謝罪したが、彼らの活動は今では世界各国の政府が警戒する状況になりつつある。たとえば、米国では、著作権に対する認識の甘さで批判を浴びてきた。