『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの大ヒットを生み出したのち、大手出版社を辞め、作家エージェントを起業した編集者・佐渡島庸平氏。彼が大切にしているのは「仮説を立てる」ということだ。

 本連載では早くも4刷と好評を博している佐渡島庸平氏初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』のエッセンスを紹介していく。

すぐに賛同者が出るアイデアは新しくない

 ぼくは「今ある情報が自分の考えている仮説と違う」ときには「情報のほうが間違っている」可能性も考えます。

 知り合いの経営者がこんなことを言っていました。「自分が言ったアイデアについて、まわりの人間が全員『それはないでしょう』と反対したときこそ『このアイデアの素晴らしさに気付いているのは世界で自分だけだ!』と逆に興奮する」と。それを聞いてぼくも深くうなずきましたが、他の経営者も何人かが「自分も同じだ!」と賛成していました。

 すぐに賛同者が出るようなアイデアは、新しいことではありません。「新しいことをやろう」と覚悟を決めているのなら、そういう態度でいることは大切だと、ぼくは自分に言い聞かせています。

 小山宙哉さんは、デビューしてから何本かの作品を「モーニング」に掲載しました。でも、読者アンケートの評判は芳しくありませんでした。

 ぼくは新人作家を育てるときに「作家の個性を雑誌に合わせてもらおう」とはまったく思いません。「その人自身の個性をいかに発揮してもらうか」、そこに全力を注ぎます。

 作家というのはオリジナリティが勝負です。それを既製の箱の中に無理やり入れてしまうことは、せっかくの個性を潰してしまうことになる。そうすると、一時は売れるかもしれませんが、長く活躍することはできません。

 むしろ逆に、強烈な個性を持っている作家がいれば、「世間をその作家に合わせる」ように仕向けるべきだと思っています。世間が寄り添えるような販売戦略を立てるのがぼくの仕事だ、と考えているのです。

数字やデータを鵜呑みにするな

 だから小山さんのアンケートハガキが悪かったときも、まったく心配しませんでした。ぼくはすごくおもしろいと思っているわけだから、「ぼくみたいな人がアンケートを送りやすい仕組み」に変えれば、結果が出るはずだと思っていたからです。

 ぼくは編集長に対して「今どき郵便ハガキのアンケートなんて時代遅れじゃないですか? 20代、30代の声を拾うのに適切な方法だとは思えません。携帯サイトを使ってアンケートを取りましょう」と提案しました。

 幸いにもその案を採用してもらい、実際に携帯アンケートをやってみると、ハガキよりも5歳以上平均年齢が若くなりました。さらに、小山さんに対する評価も、ハガキのアンケートよりもだいぶ良くて、若い読者には支持されているということがわかったのです。

 この携帯アンケートの結果から、小山さんと新しい連載を始めることができました。このときも「若い読者は小山さんの感性をわかってくれるはずだ」というぼくが立てた仮説がもとになっています。その仮説を証明するために、携帯アンケートという「情報」を集めてきた。目の前にある結果の悪いアンケートを信じて、どうやって人気をとろうか、小山さんと話をしていたら、『宇宙兄弟』は生まれなかったでしょう。

 とにかく数字・データなど、今ある情報を見ても早合点しないこと。情報が間違っている可能性も考慮すること。目に見える数字のデータであっても、集め方次第で数字は変わってきます。数字をつくり出したのも人間なので、なにかしらの意図があることも少なくないからです。

 過去の数字・データを鵜呑みにせず、むしろ自分が普段の生活や仕事で感じていることを信じることが大切なのです。

※明日に続きます