台湾の総統選挙と立法院(議会)選挙で蔡英文女史と彼女が率いる民主進歩党(略称・民進党)が圧勝したため、日本では「台湾で独立への動きが再燃し、中台の緊張が高まるのではないか」との懸念、あるいは期待が語られる。だが現実には台湾の世論調査で「現状維持」を望む人は88.5%に達している。
米国は中国とのトラブルを警戒して台湾独立には断固反対の姿勢を示しているし、台湾にとり大陸との経済関係は絶大だがら、蔡女史は台湾でも米国でも「現状維持」を唱えて支持を求めてきた。それだけに蔡女史が5月20日に総統に就任しても独立志向と見られる言動は避けざるをえず、立法院もせいぜい「いま以上の大陸との一体化に抵抗する」程度になる公算が高いだろう。中国、台湾双方との経済関係が重要である日本にとっても中台が対立することは不利だから、蔡総統が穏健な政策で安定をはかることが期待される。
独立を望んだ陳水扁総統は
米国に激しく非難された
1月16日に投開票が行われた台湾の総統選挙で民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)主席(59)は689万票を獲得。国民党の朱立倫(チュ・リールン)主席に308万票もの差を付けて当選した。蔡女史は台湾で初の女性総統になるだけでなく、中国本土、香港、シンガポールを含む中華圏で初の女性総統となる。
民進党にとっては2人目の総統で、2000年から2008年まで総統だった陳水扁(チェン・シュエビェン)氏は蒋経国(蒋介石の長男)総統の時代に投獄されたこともある反体制派弁護士出身で台湾独立志向が強く、「中華民国憲法は中国全土を統治していた当時に定めたもので台湾の実情に合わない」として2004年3月に憲法改正の賛否を問う住民投票を行おうとした。
米国は台湾独立運動が激化し、中国と台湾の「二者択一」を迫られては不利だから、陳水扁氏に強い警戒心を示し、米国務省は「台湾独立につながる動きを支持しない」「米国は台湾防衛の義務を負っていない」と台湾側に通告した。
米国が1979年に中国と国交を樹立し、台湾と断交した際、申し訳的に定めた台湾関係法は「米国は台湾住民の安全、あるいは社会または経済体制を危機にさらすいかなる武力行使または他の形による強制にも抵抗する能力を維持する」としている。「能力を維持する」だけで、それを発揮するとは定めていないから、「台湾防衛の義務を負っていない」というのは事実なのだ。