公助・共助からの変化
地域住民への周知に、まだ課題あり

 このように、地域の将来を案じて、地域住民が発起して進めている「NPO法人くちない」の自家用有償旅客運送なのだが、根本的な課題を抱えている。

高齢化する地域の「足」に自家用車を使う試みの難しさ「店っこくちない」の店内。地域住民の「井戸端会議」の場としても使われている Photo by Kenji Momota

 それは、登録世帯数が少ないことだ。平成26年度の登録世帯数は、全世帯550のうちの10分の1以下の53世帯にとどまる。平成22年度の31世帯から、39世帯、42世帯、44世帯と年を追うごとでの登録数の伸び方はとても低い。

 前出の今野氏は「当初は、ほぼ全世帯が登録すれば年間50万円程度が確保できるため、それを活動の基盤にする計画だった」と語る。

 利用者数は、「町内輸送サービス」(公共交通空白地・有償運送)は、平成22年度から240人、611人、829人、806人、917人と全体的には増加傾向にあるが、土日の運行では、平成26年度は通年でたったの5人。ここまで利用者数が少ないのは、「街中に住んでいる家族などのクルマで出かける場合が多いから」(今野氏)という。一方、年間登録料がかからない福祉有償運送では、280人だった。

 経費については、年間で140万円。町内輸送サービスでは、個人ドライバーへの支払いが1回300円。ガソリン代が30円程度になる。福祉有償輸送では、ドライバー1回1000円、ガソリン代が100円程度だ。これに対して、収入は運賃や年間費用が45万円、北上市からの「支線交通運行事業に関する助成金」が50万円だった。

高齢化する地域の「足」に自家用車を使う試みの難しさ口内町の名産品となった、地元で採れる「ごしょ芋」を使った、コロッケ(写真右)と餃子。年間300万円近い売り上げがある

 よって、収支は45万円の赤字だ。ここに、スクールバスの委託事業、年間のべ利用者数が5291人(平成26年度)の「店っこくちない」の売上(約200万円)などで、「なんとかトントンの状態で、いまは“踏ん張っている状況”だ」(今野氏)という。

 今回の取材を通じて感じたことは、「自助・公助・共助」という日本の地域社会が培ってきた社会構造を「有償」という「分かりやすいカタチ」に変革する際、地域住民の意思統一を進めることが難しいという現実だった。「NPO法人くちない」には、「新しい地域交通への挑戦」に対して、近隣の市町村から自治体や民間企業の関係者が視察に訪れるという。

 その一方で、たった550世帯の口内町内で、「自家用有償旅客運送の意義」に対する周知が不足していることも事実だ。

 こうした「くちない」で見られる“厳しい現実”を、全国各地の地域交通の変革活動において、是非とも参考にしていただきたい。