東京五輪前の首都直下型地震という
「緊急事態」への対応策も皆無

 問題を別の側面から見てみよう。国会では自民党議員が、首都直下型地震が「切迫している」ことを挙げて、「緊急事態条項」の導入という憲法改正の緊要性を主張している。確かに上記の98条には、「地震等による大規模な自然災害」が「緊急事態」の重要事例として記されている。

 しかし、こうした議論もまた、日本にとっての重要問題が看過されていると言わざるを得ない。そもそも、2013年12月に公表された中央防災会議の作業部会報告によれば、首都直下型地震が発生した場合の被害想定は死者2万3000人、避難者700万人、被害総額約95兆円に達するとのことである。

 1年間の国家予算にも匹敵する被害が想定される巨大地震が首都圏で切迫しているとした場合、当然ながら直ちに危惧されるのは、果たして2020年の東京五輪は無事に実施されるのか、ということであろう。今の段階に至って五輪を返上できない以上、急ぎなされねばならないのは、直下型地震という「緊急事態」が発生した場合でも、「国を挙げての大事業」とされる五輪を成功裏に遂行できる体制を作り上げることであろう。

 しかし、筆者の知る限り安倍政権には、こうした深刻極まりない事態への危機意識が完全に欠落しており、対応策も皆無である。このままいけば、日本の戦争で中止に追い込まれた1940年の五輪と同じく、「幻の東京五輪」が再現される恐れなしとは言えない。

 以上に見てきたように、北朝鮮による原発へのミサイル攻撃や、東京五輪前の首都直下型地震の発生など、予想される「緊急事態」への対応策を具体的に何一つとろうとしない政権や政党が、憲法を改正して「緊急事態条項」を新設しようと主張しているのである。

 このブラックジョークとも言うべき事態は、何を意味しているのか。おそらくその狙いは、真に「緊急事態」に対処しようというよりも、「何人も、……国その他公の機関の指示に従わなければならない」との改正草案99条3項の規定に示されているように、「あるべき国家体制」の構築に向けられているのであろう。