戦略なきコスト抑制ではジリ貧となる
賃上げこそが事業改革・生産性向上を促す

 2000年代半ば、米国を主とする海外景気の好調と円安により、上場企業は史上最高益を記録し、労働分配率も大幅に低下した。しかし、賃金はほとんど伸びなかった。結果、内需のバッファーがなかったために、その後のリーマンショック後、欧米と異なり金融セクターが健全であったにもかかわらず、先進国の中でも特に急激な景気後退を余儀なくされた。その後、大幅な円高の進行もあって海外生産シフトが進み、日本の成長力の大幅低下につながり、デフレはいっそう深刻化したのである。

 現状では過去のリストラクチャリングの成果が顕在化するもと、原油安の恩恵も加わって、企業の収益水準は高い。世界情勢の不安定化の底流には中国が構造調整過程に入ったことがあり、海外景気の低迷や不安定な市場環境は長期化すると予想される。そうした状況で、当面の利益確保を優先して戦略なきコスト抑制を続ければ、個別企業はジリ貧を余儀なくされ、マクロ的にも持続的な景気後退を招くことになろう。

 今が踏ん張りどころである。客観的に見れば日本経済の国内環境はさほど悪くない。すでに指摘したとおり、原油安が企業収益を底上げしているほか、円安を契機に爆発的に増えたインバウンド消費が、新たなビジネスチャンスを生んでいる。日本製品の良さを生で知った外国人はその後も買い続け、インバウンド関連商品の輸出が増えてきている。考えてみれば、観光は外国人に生の日本を体験してもらい、日本の製品・サービスを売り込む絶好のチャンスといえる。

 また、総人口は減少しても高齢者数はしばらく増え続け、ヘルスケア関連のニーズは拡大し、介護ロボットやICTを使った見守りシステムなど、新たな商品・サービスが次々に生まれている。フィンテックに代表されるように、サイバー技術の飛躍的発展が新規ビジネスの機会を生み出している。目を凝らしてみれば、これまでになく、様々なビジネスチャンスが生まれてきているのである。

 一方、人手不足がジリジリと深刻化しており、限られた人員の有効活用が経営の重要課題になっていることに目を向けるべきである。とりわけリーマンショック以降、付加価値生産性が低下しており、収益事業への事業ポートフォリオの組み替えが求められている状況である。不採算事業・衰退事業を整理し、収益事業・新規事業に人員をシフトさせることを検討すべき局面といえよう。