雇用は堅調に増えているにもかかわらず、期待に反して消費も賃金も一向に伸びないのはなぜか

雇用者増が続けば消費は回復し、労働需給の逼迫でいずれ賃金も上昇、景気は好循環に入る、との見方は少なくない。だが実際には、雇用好調にもかかわらず、依然として消費は低迷し賃金も期待ほど上がらない。このギャップはどこから来るのか、いつ解消されるのか。第一生命経済研究所の柵山順子主任エコノミストは、「労働時間の短縮化」という観点から分析した結果、そこには構造的な問題があり、先行きは楽観できないと指摘する。

雇用が増えても消費は伸びず
問題は雇用増の“中身”

 9月8日に公表された4~6月期GDPで、個人消費は前期比▲0.7%と、消費税率引き上げ直後の昨年4~6月期以来、一年ぶりの前期比マイナスとなった。その後についても、7月分の月次統計や8月分の業界統計もさえない結果となるなど、足元でも消費の停滞感は続いている。

 一方で、労働市場に目を向けると雇用者数は引き続き堅調に増加しており、水準で見てもリーマンショック前を大きく上回るなど、回復目覚ましい。

 これまで雇用者数の増加基調を背景に、消費の回復基調は崩れない、いずれ消費も回復基調に戻るとの見方が多かった。だが、足元では雇用と消費の温度差は大きく広がっている。

 この背景には、雇用者増の多くにおいて、短時間労働者で賄われていることが挙げられる。雇用者数は増えても、その多くが短時間労働者であるため、雇用者数の伸びで見るほど、労働投入量(雇用者数×一人あたり労働時間)は増えてこなかった。結果、雇用者報酬(雇用者数×一人あたり賃金)の増加幅も限定的となり、消費は伸び悩んできたのだ。

 本稿では、足元までの雇用増の中身を労働時間という切り口から振り返ってみることで、先行き、この雇用と消費の温度差が解消されるのかについて考えていくことにしたい。