筆者の試算では、足もとの銀行券発行残高92.5兆円のうち44%がタンス預金になっている。マイナス金利への不安がタンス預金に流れているのか

 タンス預金が急増している。2016年1月末時点での銀行券発行残高は92.5兆円。筆者の試算ではその中の44%に相当する41.7兆円がタンス預金になっていると推定する(図表1、2参照)。

 タンス預金とは、家計などが金融機関には預けずに、自分で保管している現金のことである。タンスに入れて保蔵するから「タンス預金」なのだ。実際は、金庫の中にしまっていることが多く、最近は家庭用金庫の販売が活況を呈しているらしい。盗難リスクに備えて、ざわざわ高額の金庫を買ってまで、利息のつかない現金を抱え込む行動は奇異に見える。

(注)タンス預金の推計は、1995年以降、千円札の伸び率を上回って、1万円札の伸び率が高まった分を残高で累積させて計算した 拡大画像表示

相続税強化とマイナンバーに続き
マイナス金利への不安も影響か?

 過去、タンス預金が急増したのは1997年から2003年頃までの時期であった。金融不安によって、自分の預貯金がどうなるかわからないという不安の時代に、タンス預金が増えた。2000年代後半のタンス預金残高は、平均26.6兆円だった。

 その後しばらくは、タンス預金は増えずに横ばいだった。それが2015年初くらいから目立って伸びている。現在の41.7兆円は、金融不安時の1.5倍以上に膨らんでいる計算だ。今は金融不安でもないのに、なぜ人々はタンス預金に走るのだろうか。

 1つの理由は、相続税強化に対する反応だろう。2015年1月から相続税課税が強化された。基礎控除が一気に4割も縮小されて、今まで課題対象ではなかった人が不安になった。すると、自分の資産が将来の課税対象になるのではないかと感じる人が多くなり、その中で資産の一部を現金で持とうとする人が増えたということだろう。

 さらに、2016年1月からマイナンバー制度が運用開始となる。前年に相続税が強化され、すぐにマイナンバーが始まったことは、大口の資産家に警戒心を与えたのだろう。現金保有の増加は、自分で資産を管理したいという気持ちを抱く人が急増したことを反映している。