トランプ氏はまさにあらゆる意味でアウトサイダーである。不動産王と言われる同氏は政治家であったことは一度もなく、実業家として財産を築いてきた。大統領選挙では多大のキャンペーン費用を必要とするが、トランプ氏の場合は選挙費用を他人に依存する必要はない。資金を受け取ることにより生ずるしがらみがないというわけである。また公職にあったものはその時代のスキャンダルに怯えるが、民間人としてのトランプ氏はスキャンダルを恐れなくて済むということなのかもしれない。

 クリントン氏が苦戦を強いられている最大の理由の一つは、自身がワシントン・インサイダーそのものであるという点である。世論調査でもクリントン氏を信用しないという人は約6割に達する。国務長官時代に私用メールアカウントで機密を扱ったのではないかという捜査が行われているが、このメール問題でも、同氏は真実を述べていないのではという疑いの目で見られている。

失われつつある政党アイデンティティ
共和党主流派は明らかに反トランプ

 このような予備選挙を通じて、共和、民主両党双方で伝統的なアイデンティティが失われつつあることも指摘されている。米国の共和党・民主党の二大政党制は英国の保守党・労働党の二大政党制と並び、比較的各党のアイデンティティが明確であった。

 共和党は小さな政府、政府の介入を最小限にした自由な市場体制、プロビジネス、家族・宗教などの伝統的価値、国家安全保障の重視を標榜し、より富裕な層が支持母体であった。一方民主党は、リベラルな価値、大きな政府による所得再配分政策、人権・環境等の重視を標榜し、支持母体も労働組合を主体とする労働者層に求めてきた。

 トランプ氏は共和党の従来のアイデンティティに沿った候補ではない。むしろ、より大きな政府の介入を示唆し、宗教・家族など伝統的価値を前面に出すわけではない。

 共和党の主流派と言われる人たちは明らかに反トランプである。100名を超える有識者がトランプ氏の大統領選出に反対する公開書簡に署名した。例えば日本でもよく知られたアーミテージ元国務副長官(ブッシュ政権時)は、トランプ氏やクルーズ氏が共和党大統領候補になり、クリントン氏が民主党候補になったならばクリントン氏に投票すると宣言している。共和党の一体性は失われている。

 他方、民主党にしても党内の統一が図られているとは考えがたい。サンダース氏の主張は中道に変化してきた民主党の主流とは反する原理主義的なものであり、クリントン氏もそれに影響を受けざるを得なくなっている。

 一方、民主党の予備選挙で明確に表れているのは、理念的なサンダース氏を支持するのは白人若年層であり、クリントン氏は黒人・ヒスパニック・アジア系と言ったマイノリティの人口層に強いという構図である。結果的には、民主党にあってはこのような伝統的な民主党支持基盤の下で党の結束が図られるということなのかもしれない。