「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。じっくり人生を振り返る人も多いこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。

人生というゲームの基本原理

――『人生の経営戦略』は、経営戦略論をはじめとした経営学の知見を人生に活用するという、これまでにない試みの本ですね。人生をプロジェクトとして見たときにまず必要な考え方とは何ですか?

山口周氏(以下、山口):人生というゲームの基本原理をおさえることです。何を目的とし、どんな原理で動いていくのか。

本書の中では「パーパス」として最初に紹介している項目ですね。

現在、世界的に企業のパーパスを設定する動きが出ています。パーパスを設定する理由は、判断基準になるからです。企業の中では経営者から管理職、現場の社員まで、日々判断し意思決定をしています。この意思決定の積み重ねによって会社経営がうまくいくかどうかが決まりますが、その際に判断基準が必要ですよね。

人生も同じです。個別の戦略論の是非を云々する前に、人生というプロジェクトの長期目標を考えるべきなのです。

――人生においてもパーパスを設定すれば、それに照らして意思決定していくことができるということですね。

山口:そうです。逆に言うと、パーパスがなければ「人生の戦略」を立てることができません。

本書では人生というプロジェクトの長期目標を次のように設定しています。

時間資本を適切に配分することで持続的なウェルビーイングの状態を築き上げ、いつ余命宣告をされても「自分らしい、いい人生だった」と思えるような人生を送る

「年収を上げる」とか「スキルを身につける」といったことは、何のために?と質問していくと最終的にすべてこれに行き着きます。

この長期目標に向けて何が使えるのかというと時間資本です。キャリアは10代後半から20代前半にかけて始まりますが、この時点で人脈があるとか金融資本を持っている人はほとんどいませんよね。一方で、必ず持っているのが時間資本です。

時間資本をどのように配分すれば幸福になれるのか。単純化すれば、人生はそういうゲームなのだと言えます。

――人生をゲームとして捉えるのが面白いですね。

山口:そう捉えると、ゲームに勝つためにさまざまな戦略が使えるようになるのです。

人生をゲームとして捉えることに違和感を持つ人もいるとは思います。でも、ゴールに向けて不確実性がある中で、複数の選択肢から最適と思える行動を選びながら進んでいくのがゲームだとすれば、まさに人生も同じですよね。

20代の「時間資本」を何に費やすか

――時間資本を、どのように配分していけばいいのでしょうか。

山口:まず築くべきは人的資本です。人的資本とはスキル、経験、知識といったものを指します。つまり、時間資本をできるだけ濃密で有意義な経験が得られる「スジの良い仕事」に投下していくことが重要なのです。

たとえば、有名企業に入ってもなかなか大きな仕事をさせてもらえずに過ごす5年間より、小さな企業ですぐにプロジェクトリーダーを経験し、大きな仕事をしてきた5年間では人的資本に差が出ることがわかりますよね?

――報酬は高くても、人的資本があまり溜まっていかない仕事をしている場合もあるかもしれませんね。

山口:キャリアの前半のステージで、どのような仕事に取り組むかは、この「時間資本の人的資本への転換」という観点から非常に重要な論点となります。

いきなり社会資本は築けない

山口:人的資本が育ってくると、高い水準のアウトプットやパフォーマンスを生み出すことになり、「あの人に仕事を頼みたい」「あの人なら間違いない」という評判や信用やネットワーク、つまり「社会資本」を生み出すことになります。これは自分の外側にできる資本ですね。

――時間資本を直接、社会資本の構築に注ぎ込むのは良くないのでしょうか?

山口:効率が良くありません。典型的なのが異業種交流会ですよね。人脈を作ろうと異業種交流会にせっせと出かけて行って時間を使っても、人的資本の裏打ちもないのに「いきなりスカウトされて要職に抜擢」なんていうことにはならないでしょう。

同様に、時間資本をダイレクトに金融資本の構築に投下しようとしても、非常に効率は悪いと言えます。金融資本を生み出すのは主に社会資本です。

ゲームのルール

スキルや経験が直接お金になるわけではない

山口:注意してほしいのは、人的資本が金融資本を生むわけではないことです。自分の収入を上げるためにスキルや資格を身につけようとしている人からすれば、「そんなバカな」と思うかもしれませんが、よく考えてみてください。人的資本は外側から見えませんよね?

私はロジカルシンキングができます、プロジェクトマネジメントの経験がありますと言っても、外からその能力を見ることはできません。だから、労働市場において取引する際は、学歴や職歴や賞罰といった情報を用いて意思決定しています。

金融資本を生み出すのは社会資本であって、スキル・経験・知識といった人的資本ではないということは、キャリアを考えるうえで非常に重要な点です。