ミャンマー進出の場合の検討の難しさ
進出の目的の確認は不可欠であるものの、ミャンマー進出の検討の際の問題点は、検討の材料が日本にいてもなかなか集まらないことだ。従って、最初の段階でできることはおのずと限定的になる。最初にすべての答えが出るとは思わず、むしろ今後何を調べていけばいいのかのロードマップ作り程度に考えておいたほうが現実的だ。
そうした限界は意識しつつも、以下に、具体的な検討プロセスをご紹介する。
b)検討のフレームワーク
「なぜ」ミャンマーなのかを検討する際の、重要なチェック事項を、下記の6つのステップに分けて説明する。
ステップ1 進出の目的の明確化
・
会社の事業計画と整合性が取れるかを確認しつつ進出目的を明確化する
ステップ2 目標数値の設定
・
後に変更しても構わないので議論の基準となるような定量的な数値目標を設定する
ステップ3 進出のメリット・デメリットの検証
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メリット・デメリットについて進出を伴わない代替手段と比較することで検証する
ステップ4 比較対象とする進出対象国の設定
・
進出によって目的を達成する場合、他の国として潜在的にどこがあり得るか想定する
ステップ5 比較の軸の検討
・
情報の入手可能性にかかわらず、設定した目標に対応した適切な比較軸を設定する
ステップ6 ざっくりとした目的の再確認
・以上を踏まえて、ミャンマー進出が方向として正しいか大枠で構わないので確認する
ステップ1 進出の目的の明確化
まずは進出の目的は何なのかを明確にすることから始めよう。例えば、進出の目的として比較的多い例が、下記のケースだ。
・新規市場の確保
・より安価な製造拠点の確保
・現地の優秀な人材の抱え込み
・親会社からの要請
・海外事業における拠点の確保
なぜ、今回の進出を行うのだろうか。この段階では、正しい、正しくないは存在しない。目的と思うものを複数挙げてみて、その中で特に重要と思われる事項を整理する。
ただ、その際に大事なのが、全社の事業計画との整合性の確認だ。海外進出の目的が、全社計画から大きく逸脱していたり、異なっているようであれば、この段階でそもそも方向性の違う議論をしていることになる。海外進出計画が、全社の事業計画とどのように関連付けられるのかは、今後の社内での説明においても根幹になるので、早い段階で意識しておくことが重要だ。
ステップ2 目標数値の設定
目的設定においては、必ず目標数値と目標期限を設定する必要がある。「新規市場の拡大」など、定性的な目標だけだと、総論賛成だが実際に進める際に、具体的な議論ができないからだ。従って、具体的にいくらの新規売り上げを、今後何年間でいくら増加させることを考えているのか、その際の追加コストはどの程度まで許容できるのかについて、明確化させる必要がある。
この段階で、ある程度材料がないと数値目標は立てられないと思うだろう。ただ、また一方で、数値的なイメージがないと、どのような進出の規模や方向性なのかをイメージできないのも事実だ。古典的な、「卵が先か、鶏が先か」の問題だが、最初は大くくりの数値でよいので、目標の売り上げや利益率等を設定し、今後実際にそれが可能か検証していく形のほうが、議論を進めやすい。
ステップ3 進出のメリット・デメリットの検証
進出するメリット・デメリットを検討する際には、逆に「進出しないでその目的を達成するにはどのような方法があるのか」を検討したほうがよい。つまり、進出しないで目的を達成する場合をベンチマークにするのだ。そうすることにより、進出しないで行う場合と比較して、進出すればこれだけのメリット・デメリットがあるとの比較の議論が行いやすい。
当然、進出するメリットは、どこの国に出るかによって大きく変わってくる。従って、その次のステップとして、どの国に出るのがその進出の目的を最大化できるのかを検討する。
ステップ4 比較対象とする進出対象国の設定
どの程度ミャンマーに決め打ちするかにかかわらず、必ず比較対象となる進出する国を仮置きし、その国との比較の中でミャンマー進出を検討することが重要だ。なぜなら、他国との比較を通じてこそ、ミャンマーの相対的なメリット・デメリットが初めて見えてくるからだ。
従って、例えば「もし同じ目的で、仮にカンボジアに進出する場合はどうなるか」を考えてみる。ミャンマーの進出一つをイメージするのだけでも十分大変なのに、別の国を考えるなんて、そもそも無理と思うかもしれない。ただ、大事なのは「他の国だったら実はもっといいのではないか」と冷静に分析する心を忘れないことだ。
東南アジアで比較的多いミャンマー進出における比較対象企業は、ベトナムやインドネシア、カンボジア、ラオス、バングラデシュといった国々が多い。業種に応じて、また目的に応じて、比較対象になり得る企業が変わってくる。
ステップ5 比較の軸の検討
海外進出の目的によって、何を軸にメリット・デメリットを評価すべきかは当然異なってくる。一例として、大きく「製造拠点としての進出」なのか、「現地市場確保のための進出」かに応じて、必要になる情報が大きく分かれてくる。
例えば、それが「製造拠点としての進出」の場合、インフラの成熟度、特に電気代、工場用地、賃借料、熟練工員の存在、材料の調達経路、輸送費といった点が重要だ。一方で「現地市場の確保」であるならば、その商品の想定市場規模、市場拡大の可能性、想定される顧客層、現地の競業企業の存在、他の外資系の進出度合い、人件費、輸送費といった点が重要になる。
ミャンマー進出の場合、このあたりから難しさに直面してくる。なぜならば、他国への進出検討の場合と異なり、必要な情報がなかなか入手できないからだ。ここで多くの企業が、しっかりと事業計画を作ることを放棄して、まずは現地に飛び込んでいこうとなるか、また逆に検討プロセス自体をあきらめてしまいがちだ。
ここで大事なのは、正確な情報がなくても、何が必要な情報なのか、何が代替の情報になり得るか、その情報がわからない場合どの程度問題なのか等々について考えることだ。比較材料になる情報をなるべく求めようと、根つめて考えると、情報がないので気が滅入ってくる。従って、何がないかを洗い出すぐらいの心持ちのほうがいいだろう。
ステップ6 ざっくりとした目的の再確認
この段階で、冒頭の「なぜミャンマーなのか」に立ち返ろう。その上で、会社の事業プランに基づいて、海外進出が妥当なのか、ミャンマーが対象として正しいかを確認する。この段階ではそれを決定するための情報がない場合がほとんどなので、「大枠で全く方向から外れていないか」をチェックする。
もし、外れているようなら、これ以上検討しないほうがいいだろう。ただ、そうでなければ、わからないなりに先に進もう。そして、どのような情報が足りないのか、何が今後意思決定に重要なのかについて、心に留めておくことが重要だ。