今回のテーマは「鯨肉」である。本稿のテーマは、あくまでも健康食としての鯨肉であるが、おそらく鯨肉を食する人であれば、捕鯨問題にまったく無関心でおられる向きは少数派ではないだろうか。
かく言う筆者も、元・水産庁の小松正之氏がIWC総会などで交渉担当を務められていた頃から関心を持っていた。当時、同僚とのあいだでこの話題になった際、「クジラを食べられなくなったって、ほかのものを食べればいいじゃないですか」、「そんなこと言ってると、そのうちマグロも食えなくなるんだから」といったやり取りをした覚えがある。
日本が南氷洋や北大西洋で調査捕鯨を行うことの是非とは別に、日本の捕鯨と鯨肉食にまつわる論点については、ドキュメンタリー映画「The Cove」(2009年)と、今も上映が続けられている「Behind "THE COVE" ~捕鯨問題の謎に迫る~」(2015年)の両方を観て判断されるとよいと思う。
脂質が圧倒的に少なく、
多価不飽和脂肪酸比率が高い
さて、「鯨肉」である。じつは、筆者と遠からぬ関係のある知人に、築地での仕入れを生業の一つにしている方がいる。そしてありがたいことに、掘り出し物があると、時折お裾分けを頂戴する。ナガスクジラの“生の(非冷凍の)”ブロックもその一つなのであるが、これがまさに逸品。一度でも食べてみれば、冷凍のミンククジラなぞ、見向きもしなくなること請け合いである。
そのまま薄切りにして刺身でもいいし、割と日持ちするため、翌日の夜は竜田揚げにできる。味といい、食感といい、申し分ない。それでいて栄養豊富な健康食なのだから、鯨肉食を固有の食文化として守ることには一理も二理もある(と思えてくるほどだ)。喩えるならば、脂っこくない赤身の馬刺しの旨味に本マグロのトロの食感を合わせたような感じ、とでも言えようか。
以下、栄養的な側面を具体的に見ていくことにする。