リコール騒動を巡ってトヨタ自動車に辛く当たってきた米国メディアの論調に変化が見られる。たとえば、ウォールストリートジャーナルは、米当局がトヨタに有利な情報を意図的に公表しなかった疑いがあると報じた。しかし、一度傷ついたイメージの回復が容易ではないことは、1980年代に同じ経験をしたアウディが証明済みだ。また、ニューヨーク州連邦地裁の連邦大陪審はハンドル部品の不具合問題に絡みトヨタに召喚状を送っており、刑事責任を追及される可能性は残されている。トヨタがリコール騒動を過去の出来事として振り返れる日はまだ遠い。(文/ジャーナリスト、ポール・アイゼンスタイン)

 トヨタにとっては、一歩前進、一歩後退といった状況のようだ。

 同社は今、輝かしい過去の評判を汚した一連の安全性問題により自ら招いたダメージを克服しようと苦闘している。

 昨年10月のいわゆる「予期せぬ加速」問題を端緒とする一連のリコールが始まって以来、この巨大自動車メーカーにとっては良くない流れが続いている。その後、リコール対象となった製品は全世界で800万台を超え、米国内だけでも多数の訴訟を抱えている。アナリストたちは、最終的に訴訟費用は20億ドルを超える可能性があると試算している。

 だが、そのトヨタに対して、どうやら米連邦政府から救いの手がさしのべられる可能性があることが判明した。自動車の安全性を監督する連邦当局は、トヨタに決して寛容だったわけではない――米道路交通安全局(NHTSA)は今年初め、過去最高額となる1640万ドルの罰金を科したほどだ。だがNHTSAの調査官が明らかにした証拠は、いざ訴訟となった場合にはトヨタにとって有利に働くはずだ。

 トヨタ車から回収された車載データレコーダ(いわゆる「ブラックボックス」)の暫定的な調査結果によれば、「予期せぬ加速」事故の圧倒的多数は、機械的な不具合や、一部のトヨタ批判派が探し求めているエレクトロニクス系の未知のトラブルではなく、運転者の操作ミスが原因だったと思われる。

 NHTSAの資料によれば、多くの事例ではトヨタ、レクサス両ブランドの車種が操縦不能に陥ったと主張するドライバーたちは、急ブレーキのかわりにアクセルを思い切り踏み込んでいたという(ただしNHTSAは8月8日現在、まだ正式な報告書を発表していない)。他の事例では、ブラックボックスのデータからは、「車両が意に反して急加速した」という状況に対してドライバーがブレーキを踏もうとした形跡が見られなかった。政府が調査した事例のうち、機械的な不具合(フロアマットがアクセルペダルに引っかかった)により死亡事故に至ったように疑われるものは1件のみだった。