この約800億円という査定額にどのような根拠があったのかについてはまったく知らされていない。保険の引き受け手が誰もいなかったことを考えると、信憑性に欠ける数字にも思えてくる。

では、すべてのモノの価値を金銭的価値に置き換えるファイナンスは、モナ・リザの価値をいったいいくらだと見積もるのだろうか? その考え方をお伝えしていくことにしたい。

価値評価の方法として、コスト・アプローチ(原価法)とマーケット・アプローチ(取引事例比較法)についてはすでに検討し、それぞれには弱点があることを確認した。これに対してファイナンスが採用するのが、キャッシュフロー・アプローチ

1億円のモノは、これから1億円稼ぐ

キャッシュフロー・アプローチとは、「モノの価値はそれが生み出すお金の量によって決まる」という考え方である。

あるモノが生み出すお金のことをキャッシュフローと呼ぶ。たとえば、月10万円の家賃のマンションには年120万円のキャッシュフローがある。このように、あるモノがどれくらいのキャッシュフローを生む力(稼ぐ力)を持っているかという観点で、モノの価値を考えるのがファイナンスである。

銀座のコーヒー1杯が1000円するのは、コーヒー1杯で1000円稼ぐ力を銀座のカフェが持っているからだ。同様に、そのカフェが入っているビルが100億円で売られているのは、それに相当するテナント料を稼ぐ力があるからだ。

キャッシュフロー・アプローチをとると、世の中の見え方が大きく変わってくる。また、パンダや芸術作品や、果ては人間まで、一見すると評価不可能と思われるものでさえも、その価値を測ることが可能になるのだ。

では、モナ・リザが稼ぐキャッシュフローに着目すると、その価値はどうなるだろうか? 考えてみよう。